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【支城改造】達成率40%
冬はもはや過ぎ去り、辺りには暖かな空気が満ちている。 戦略拠点としての機能をもはや失ったカディス城塞……現ノルグランド護衛士団本部を見下ろす丘には、この地を守り命を落とした者達の墓がある。その中でも最も新しい墓には、カディス守護将・ラドックの名が刻まれていた。 墓前にいるのは、イリュードと彼を案内してきたディナーハだ。 「……お前達、ラドック殿が自害した意味を理解しているか?」 不意に問いを発したイリュードに、ディナーハは怪訝な視線を向ける。 「カディスの誇り……ってのじゃないのかい?」 「それもあるが、それだけでは無いだろう」 イリュードはディナーハに一つ首を振り、苦笑をその口の端に上らせた。 「彼の死が、我等との関係においてどういう意味を持つのかを考えてみるべきだろう……お前達が、本当に『対等な交渉』をしたいと思うのならば、な」 「ラドック団長の死の意味……?」 『カディス護衛士団の団長が自ら死を選んだ』という事がどういう意味を持つというのか。考え込むディナーハから墓へと体を向け、イリュードは静かにラドックの冥福を祈る。
「まず、お前達はグリモアガードとしてグリモアを死守しなければならない」 カディスの地についての説明を受けに来たノルグランド護衛士達に、ジャルイマはそう説明する。 「それが、グリモアガード本来の役目だからな。とはいえ、ソルレオンと和議が結べたならば……それ程多くの戦力を割く必要も無かろう。万が一の時には本部にいる者でどうにかするしかないが」 「そうなる危険性は低い……ですね」 エドランの言葉をジャルイマは首肯、 「それと、地域の巡回を怠らない事だ。地域の異変に最も敏感なのは、やはり住民達だからな。お前達が信用を得ていれば、得られる情報も増えるだろう」
カディス城塞がなくなった今、『カディス』と言えば街の名を指す事になる。カディス城塞の城下町だ。 位置的にノルグランド護衛士団本部から至近となるこの街は、カディス城塞の破壊後も地域の流通拠点となっている。だが、 「雰囲気が、良くないですね……」 ビクトリーは呟き、柳眉をしかめた。カディス城塞の破壊は、やはり人心に不安を落としているらしい。と、ビクトリーの耳に不穏な呟きが聞こえて来た。 「いっその事、ソルレオン領にでも――」 驚きそちらへ視線を向けるが、誰がそれを口にしたのかは分からない。 「私達の民を守る意志を、疑われているという事でしょうか……けれど」 それを示すには、行動を以って行う他に無い。心に決意とかすかな不安を抱き、ビクトリーは巡回に向かうべく歩き出した。
「息子の遺品を借りたいだと……何をする気だ貴様等!」 「いや、だから霊査を」 「白々しい……どうせ同盟に都合の悪い事は隠す気に決まっているだろうが!」 取り付く島も無いといった様子のバクスに苦笑し、ゲイブは彼の牢を後にする。 (現に同盟に都合が悪い事は隠してるからな……) 別の牢にいるゼニスキーの事を思いながら歩く彼に、同じく歩哨をしていたティエランが声をかける。 「お疲れ様です。その様子だと駄目だったようですね……」 「ああ、ありゃ同盟に味方する気なんざさらさらねぇな。下手に今解放なんかすりゃ……」 ゲイブはやれやれと肩をすくめ、 「ソルレオン領に速攻駆け込まれて、洗いざらいぶちまけられちまうだろうな」 その言葉に、ティエランはその眉根を寄せる。 「そうなれば、和平も何もかも……」 「オジャンだろ」 「オジャンですか……」 少しの沈黙の後、二つのため息がノルグランド城砦の地下牢に大きく響いた。 |