<オープニング>


「待たせたな。約束の刻が来た。……これより、そなたらを『大神の間』へと案内する」
 バレジンがそう告げると共に、付き人であるグルニが護衛士達にフードつきの外套を配っていった。護衛士達がそれを受け取るのを見ながら、バレジンは説明を続ける。
「これから大神の間において、月に一度の『清めの儀』が行われる。そなたらには、この儀式に参加する者の一人として、わしと共に『大神の間』へと入ってもらう事になる」
「……で、このフードは?」
「何を言っておるのだ……『清めの儀』において、顔を隠さないわけが無かろう?」
「???」
 困惑する護衛士達にバレジンが行った説明によれば、『清めの儀』とは、『フードを被り、顔を見せないようにした信徒達が床や壁を磨く儀式』となるという。
 大神の座す聖なる場所が汚れる事はありえない。故に清掃は元来必要なく、清掃を行う者は『誰でも無い者』となる……フードを被って顔を隠す事には、そうした意味合いがあると彼は語った。
「……てことは、大神ザウスがいる場所もやっぱり普通に汚れるんだね」
「なんていうか、妙な儀式ね〜……。こっちにとっては都合いいけど」
 囁き交わすフィサリスとオウカの様子に微かに眉をしかめながら、バレジンは話を続ける。
「『清めの儀』の際には、そなたらも大神ザウス様の御許に近付く事が出来る……過去にも、この儀式を利用して直訴を試みた者がいたそうだ。その直訴が成功したか否かは、わしも知らぬがな」
「でも、他のトロウル達はどうするの? 私達の正体を知ったら……いえ、明かさなくても、直談判を邪魔されるかも」
「案ずるでない。今月の清掃に参加する者は穏健派か……事が起こっても対応出来ぬような、能力の低い者等で占めるように手を回しておいた」
「オグヴ護衛士団にも、根回しは済ませている。大神ザウス様がご不快を示されない限り、話が終わるまでは直訴する者……つまり、お前達に問答無用の攻撃を仕掛けはしない」
 フードを配り終えたグルニが、バレジンの後を引き継いでそう告げる。
(「穏健派は、少数派だと聞いていましたが……」)
 温かき風の便り・ミヤクサ(a33619)は内心で舌を巻いた。
 バレジンの神官としての地位がどれ程のものなのか疑問に思っていたが、今の話を聞くにある程度強い発言力はあるようだ。
 一方で、今の発現は護衛士達に別の確信も与えていた。
 グルニの言葉を逆に解釈すれば、大神ザウスが僅かなりとも不快感を示したなら、その瞬間にトロウル王国最精鋭の護衛士団から攻撃を受ける可能性が生ずる。
 大神ザウスがいる剛力の聖域オグヴの最深部で攻撃を受ける事態になれば、
「命の保証は無い、か。だけど、まあ……」
 オウカは護衛士達の顔を、改めて見渡した。
「みんな、命を懸ける覚悟は、来る前からしてるわよね。最良なのは、会談を平和裏に終わらせる事。みんな、今まで色々考えてたわけだし……ここでバシッと、決めちゃいましょう!」
 力強い言葉に、護衛士達の顔が引き締められる。
「では、外で待つ。準備は急いで……」
「あ、待って下さい。一つだけ、質問をいいですか?」
 外に向かいかけたバレジンとグルニの背に、蒼銀の怠け娘・ラティメリア(a42336) が問いを投げた。
「あなたは、私達と大神ザウスが会えば何かが変わるかもしれないと言った。ですが……なぜそう思われたのです?」
 トロウル達にとって、同盟諸国の冒険者は自分達の同胞を殺して来た憎むべき敵のはず。
 恨みの量に多寡はあれ、バレジンにとってもそれは同じだろう。
 そう問うラティメリアに、バレジンは静かに一つ、息を吸い込んだ。
「……そなたらは、偉大なる大神、ザウス様の御心を知らぬ。神に弓引くような愚かな行いをしたのも、それ故であろう。ザウス様の御言葉を賜れば、そなたら同盟諸国の者とて、自らの過ちに気づき、我らトロウル王国に降伏する。そうすれば、互いの命を奪い合う戦は、全て終結を迎えるであろう……これ以上の戦いは、互いに望むところではあるまい?」
 戦を拒否しながら、ザウスに対する信仰と忠誠は、一切の揺らぎを見せていない――。
 そう感じさせる言葉を口に上らせ、バレジンはさらに続ける。
「そなたらの中にも、これ以上の戦を望まぬ心があると感じたからこそ、我らもこうして命を賭ける気になった。そなたらの平和を望む心が真であり、悔い改めたなら……ザウス様もこれまでの過ちを御赦しになるであろう。わしは、そう信じておる」
 言い置き、バレジンはグルニと共に外へと出て行った。
 その背を見送り、オウカは深いため息をつく。
「宗教家ね〜……信徒でアレだし、神様相手に人間の理屈が通じると思わない方が良さそうね。まともな交渉にはならなそうだわ」
「なら、どうするのさ?」
 フィサリスに問われ、オウカは軽く肩を竦めると、
「こっちも信念で行くとしましょ。取引じゃ無くて、自分の意志を神に伝える事……その思いが神に届けば、なんとかなるかもしれないわ。虚仮の一念岩をも通す……ってね」
 そう言い、しかしオウカは一層声を潜めて護衛士達に言葉を飛ばした。
「でも、ダメだった場合の手段も考えておかないといけないかもね……。直訴の方に力を入れるにしても、万が一の場合に備えて、心の準備は怠り無くお願いね?」

 そして、潜入部隊にとっての最重要任務は開始される。
 同盟諸国の冒険者達が神話の領域に足を踏み入れる時が、刻一刻と迫ろうとしていた。

参加者:菓子納豆の霊査士・オウカ(a04194)(NPC)  観察者・ヒリヨ(a02084)  久遠槐・レイ(a07605)  犬尻尾のおふくろさん・シェネット(a09566)  魔法の三号戦車少女・キッカ(a19505)  不完の盾・ウルカ(a20853)  正義の矢・リュティーク(a27047)  赤黒眼の狂戦士・マサト(a28804)  灰中落花・イエンシェン(a30743)  蒼月の夜猟者・ヤト(a31720)  鱗はお茶の味・オルフェ(a32786)  温かき風の便り・ミヤクサ(a33619)  蒼銀の怠け娘・ラティメリア(a42336)  四天裂く白花・シャスタ(a42693)  業物収集家・アルト(a49360)  赤眼の優男・アーバイン(a50638) 

 

<リプレイ>

●大神の間へ
 潜伏していた洞窟の一角に別れを告げ、フードつきの外套に身を包んだ護衛士達は、大神の間を目指してオグヴの洞窟内を進んでいた。歩む道は緩やかに傾斜しており、目指す場所が地下の深くである事が実感される。
 先導するバレジンとグルニは、その緊張を示してか一言も口を利かず、その緊張感は護衛士達にも伝播していた。無言のままに歩みを進める中、周囲の様子に目を配っていた蒼銀の怠け娘・ラティメリア(a42336)は、不完の盾・ウルカ(a20853)に囁きかけた。
「なんだか、段々壁の機械が増えている感じがします」
「確かに……どういう事だ?」
 オグヴの各所で見られた、壁面からその一部を覗かせる謎の機械。
 護衛士達がそれらを見かける頻度が、大神の間に近付くにつれて増していたのだ。
 その事実が何を意味するのか分からぬままに、やがて護衛士達は一つの大きな扉の前へと辿り着く。扉はその口を開けており、その前には警備兵らしきピルグリムトロウルが2人立っていた。
(「……オグヴ護衛士団の団員ですね」)
 ピルグリムトロウルの身のこなしからそう見定めた観察者・ヒリヨ(a02084)の前で、ピルグリムトロウル達が先頭に立つバレジンに声を掛けて来る。
「ここは偉大なる大神ザウス様のおわす場所。立ち入らんとするは何者か?」
(「……拙いかな?」)
 咄嗟に身構えた赤黒眼の狂戦士・マサト(a28804)の前で、バレジンは落ち着き払った様子で問いに応ずる。
「我等は顔を持たず、名を持たぬ者、頭数は十九也。清めの儀のため、参上仕った」
 バレジンが格式ばった言葉遣いで人数を申告すると共に、問いを発したピルグリムトロウル達が頷き、大神の間への道を開ける。
(「儀礼的な遣り取りでしたか……」)
 神の居る場所に立ち入る際の、一種の決まり事の様なものか。
 外套の内側で構えかけた短剣を下ろしながら、温かき風の便り・ミヤクサ(a33619)は扉の前にいたトロウルの横を通り過ぎる。
 背の高い金属製の扉を抜け、護衛士達が大神の間に入ると、入り口の扉は重い音を立てて閉ざされる。そして、大神の間の内側に入った瞬間、護衛士達は見る。
「こいつは……」
 大神の間を満たすものは、パイプと歯車、そして金属板の群れだった。
 黄金色をしたそれらが、大神の間の壁面を覆い尽している。金属で出来た床には、継ぎ目の一つたりとも見当たらなかった。
(「これは……キングスマインド等と同等の技術で造られているのでしょうか」)
 灰中落花・イエンシェン(a30743)はそう思考し、隣へと顔を向けた。
「……今まで来るまでに見て来た機械の、中枢がここなのでしょうね」
「あれは、祭壇……ううん、玉座?」
 そう呟いた久遠槐・レイ(a07605)に従い、イエンシェンは視線を奥へと向ける。
 奥の壁の前で寄り集まった機械群は、そこで一つの大きな物体を形成していた。
 それは、金属によって形作られた異形の玉座。
 そこに座す者の姿を見た瞬間……護衛士達は、言葉を失っていた。
(「まさか、本当に、僕達と大して変わらない、大きさだったなんて……でも、何かが違う!!」)
 鱗はお茶の味・オルフェ(a32786)の目に映るその姿は、外見だけで言えば、確かにヒトの男性とさしたる違いは見受けられない。
 だが、放たれる存在感は、この場にある彼以外の全ての存在が霞となってしまう程のもの。
 それは、彼が只のヒトなどでは無いという厳然たる事実を護衛士達に理解させて余りあった。
 共に琥珀の如き艶を放つ髪と髯は、黄金の機械の中にありながらもそれを上回る程の輝きを持つかのよう。細身でありながらも筋肉に覆われた均整の取れた肉体は巌の如き頑健さを有し、不動の姿勢はそこに在るだけで永遠性を顕していた。
 いかめしい顔つきは己の力が揺るぎなき事を確信した者のみが持つ自信に満ち、しかし引き締められた眉が自己を律する心の強さを示している。
 それらの全てを併せて生まれる威厳は、この世界に存在するいかなる列強種族の王ですらも及びもつかない絶対の力を持つ神の王……この世界の造物主に相応しいものだった。
 調和と均整の取れた体躯の中で、玉座から伸びる金色の管が右腕、そして右脇腹へと潜り込んでおり、唯一にして最大の違和感を生じさせている。
「あれが……でも、神って姿を変えるものじゃぁ……?」
「大神ザウスは姿を幾つにも変えて色んな種族の女性と恋愛したっていうから、あの姿がホントのものなのかは分からないけどね。でも……幻なんかじゃ、なさそうだよ」
 囁き交わす業物収集家・アルト(a49360)や魔法の三号戦車少女・キッカ(a19505)も、体中の毛が逆立つような感覚を押さえきれなかった。
 巨大な何かがそこにいるかの様な、圧倒的な威圧感に、ザウスから目を離す事が出来ない。
「あれが……本物の、大神ザウスなのか……」
 蒼月の夜猟者・ヤト(a31720)は、声に震えを乗せぬよう、剣の柄にかけた手に力を篭める。
「うむ、ザウス様の威光、そなたらにも感じる事が出来たようだな……お言葉を賜れば、一層深くザウス様の偉大さを理解出来よう。では、行くが良い」
 護衛士達の反応に満足したかのようにそう言い、バレジンとグルニは護衛士達から離れていく。
「確かに凄まじい威圧感だねえ……けど、私達は私達の信念を少しでも伝えられるように頑張るだけさ。そうだろう、みんな?」
 犬尻尾のおふくろさん・シェネット(a09566)が、そう決意を小さく口にする。護衛士達は周りに気付かれぬ程度に肯定の仕草を返すと、清めの儀で使用する布巾を手に大神の間の壁沿いへと散らばっていった。

●清めの儀
 静謐の中で清めの儀は進んでいた。初めて見る儀式ゆえに普段の様子は分からないが、そこには奇妙な緊張感がある。
「トロウルの大半が、今日、この場で起こる出来事を、知っているから、かな」
「ええ……そうかもしれません」
 聞こえた呟きに、床を拭いていた赤眼の優男・アーバイン(a50638)は、顔を上げるとオルフェの方を見た。
「事が起きれば、いつでもオグヴ護衛士団が雪崩れ込んで来るでしょうね」
「みんな、脱出の事を、考えてるね」
 脱出経路は、自分達が入って来た場所だけしか無い。扉付近に残ったラティメリアが明らかにそちらを警戒した様子でいるのに、オルフェは気付いた。イエンシェンやアルト、そしてシャスタも、トロウル達の数、そしてその中の冒険者の数を確かめている。
 いつの間にか額に滲んだ汗のしずくが、鏡面の如く磨き上げられた床面にポタリと落ちる。慌ててそれを拭き取り、アーバインは軽く額を拭った。

 護衛士達は、清めの儀に従うふりをしながら緩やかな速度で玉座へと近付いていく。
 そして玉座までの距離が10mを切った瞬間、それまで床を拭いていた四天裂く白花・シャスタ(a42693)が無言のままに立ち上がった。
 それを合図に、大人しく掃除をしていた護衛士達が一斉に立ち上がると玉座へ走り寄っていく。
「お、おい、何を考えて……!?」
 事情を知らないのか、驚いた様子でこちらに声を掛けて来た一人のトロウルの腕を取り、ウルカはその顔を覗き込んだ。
「悪いな、しばらく向こうに行っててくれ」
「……!?」
 フードの下に覗いた顔がヒトのものである事に混乱した様子のそのトロウルを、大神の間の反対方向へと押しやると、ウルカは大神ザウスの方へと向き直った。
 そして、護衛士達は次々にフードを外していく。大神の間にトロウル以外の者が立ち入るという突然の事態に対して、起こるざわめきは、しかしそれ程大きなものではなかった。
「穏健派の根回しが効いているのね……」
「けど、連中が望んでるのもこっちの降伏だってのを忘れちゃいけないよ」
 シェネットの警告に、この後の展開次第では会談が終了した瞬間、全滅する可能性すらある事を正義の矢・リュティーク(a27047)は再確認。
 マサトは警戒を顔に乗せながら、フィサリスと二人でオウカを護れる位置へと移動する。

 それを待ち、シャスタは大きく息を吸い込んだ。
「大神ザウス様! ヒトを愛した事を覚えているのならば、どうか、今一度僕達の言葉を聴いて下さい!」
「私達は、あなたをはじめとする神々は、この地上を去ったものと存じておりました。それが何故、トロウルに力を貸されているのですか?」
「同盟の人々は、大神ザウスの御言葉を賜ったことがありません。私たちが直ちに出来る事は、ザウス神様の御言葉を同盟の人々にお伝え致しましょう」
 シェネットとミヤクサがシャスタに続き、そしてレイがザウスへと声を放つ。
「私達はずっと自分と誰かを護る為に闘ってきました。あなたが何かを護るために戦うなら、今度もまた目を逸らさずみんな動きましょう。だからお願いです、私達にも話をして下さい!」
 その願いへの応じは、反響が消えた瞬間に訪れた。

『世界とは、即ち我の意志である』

(「これは……!?」)
 アルトは、愕然としてザウスを見つめる。
 それは、『声』であった。だが、大神ザウスは口を動かしてはしない。
 大神ザウスの意思が『声』として直接護衛士達の心に響いているのだ。

『真実を知らぬ者達よ。我は、汝らにもまた悔悛の猶予を与えよう。
 汝らの真実を知り……汝らの罪をも、また知るが良い』

 そして、大神ザウスは、ゆっくりと世界の真実を語り始めた。

●世界の真実
『我等神々はヒトを創造し、知恵とグリモアを授けた。知恵は限られた紛い物しか授ける事はできなかったが、それでもヒトは十分以上にグリモアを使役することができた』
(「ここまでは、神話と同じだね……」)
 口を挟まぬ様、静かに声を聞きながら、ラティメリアは小さく頷いた。
 ここで大神ザウスが語るヒトとは、全ての列強種族の元となった、『古代ヒト族』と呼ばれる存在を指すのだろう。
 東方同盟諸国に伝わる神話では、全てのグリモアを得た古代ヒト族は、その傲慢ゆえに神に見捨てられる事となっている。
 だが、ザウスの語る真実は、その神話とは内容を異にしていた。
『されど、長き年月を経、世代を重ねるうちに、ヒトの限られた知恵ゆえの愚かさが露呈しはじめた。ヒトは、我等をも越える、過ぎたる力を希求し始めたのだ。ヒトは、更なる力を得る為だけの戦いを繰り返した』
 ザウスの語調に、どこか怒りのような気配が混じり始めていた。
(「けど、これは僕達に対する怒りじゃない……古代ヒト族に対するものだ」)
 オグヴ護衛士団が動かないのも、その為だろう。トロウル達から痛いほどの視線が向けられているのを感じながら、ヒリヨはそう考える。
(「それにしても、神をも超える力って……?」)
『やがて、最も強大な力を得たヒトの英雄達は、神の領域を越え、おそるべき破壊の力と醜き巨体を手に入れた。……彼奴等の名を、ドラゴンと呼ぶ』
「まさか!?」
 アーバインは、頭を殴られた様な衝撃を受けていた。ドラゴンズゲートの様な、ドラゴンに由来する力に近付く事、或いは力を過剰に蓄える事。護衛士達は、そのどちらかがザウスの警戒するところだと考えていたのだが、
「力を過剰に蓄える事、それは即ちドラゴンに近付く事、なのですか……!?」
「俺達チキンレッグが翼持つ鳥の姿になったように、ドラゴンになった連中がいたってのか……」
 シャスタの口調も、驚きからか地のものになっていた。
 護衛士達の脳裏を、これまでに同盟諸国が相見えたドラゴン達の姿が過ぎる。
「あいつらも、古代ヒト族の英雄達が変化した姿だったんですの?」
 キッカは思わず、腰に下げた剣に目を落としていた。彼女の持つ剣には、かつて同盟諸国を滅亡の危機に陥れた三竜の一体、カダスフィアの瞳の欠片が埋め込まれている。
 だが、彼女の思考を大神ザウスはあっさりと否定した。
『汝らの中には幾度かドラゴンとまみえた者もいるようだが、それらは全て紛い物に過ぎぬ』
「ご無礼をお許し下さい。……何故、そう言い切れるのです?」
 問うミヤクサに、ザウスは厳かに応じる。
『真なるドラゴンは、今やこの世界にただの一匹も存在せぬ。何故なら、我が神々に号令し、全ての真なるドラゴンをこの世界より放逐したからだ。そして、汝らがまみえた紛い物達は、真なるドラゴンに遥かに劣るが故に見逃された存在である』
「真なるドラゴンは、そこまで強い力を持っていたってわけかい……」
 シェネットが呟くのを他所に、ザウスの語りは続く。
『しかし、我等の決断は遅すぎた。既に大地はかつての面影も見出せぬ程に荒廃し……我を除いた神々は皆、世界を捨てて去って行った』
 護衛士達の脳裏を、幾つかの名前が通り過ぎる。
 ランララ、フォーナ、ミラルカ……祭に冠される神々は、いまやこの世界から去っている。
『しかし、我はこの大地を見捨てる事はせぬ』
 それは、神々の長としての自責の念だろうか。
『過ちを繰り返さぬ為、我は新たにトロウルを創造した。不完全な知恵しか授ける事ができぬのならば、知恵を授けずとも十分に生きてゆける種族を作り出せば良い……』
「それが、トロウル……?」
『トロウルは考えぬ。ただ、純粋なる魂のままに生き、恵まれた肉体を以って戦うのみ。トロウルの知恵は、ただ生きる為、戦う為にのみ使用される』
 戦いのためだけの戦いを求める種族、トロウル。
 一見邪悪とも思えるその性質は、裏を返せば、戦い以外の目的を持たないという事でもある。
(「つまり、『新たな力を求める様な真似はしない』という事でもあるんですね……」)
 アーバインの額を、汗が伝った。
『ドラゴンの過ちを繰り返す事の無いトロウルこそが、大地の統括者たるに値する、唯一の種族なのだ』
「そんな……!?」
 トロウルに対して遺恨を持つリュティークは絶句する。
『我が前に頭を垂れ、決定を受け入れよ』
 神意は伝えられた。
 大神ザウスは、悠然と護衛士達を睥睨する――。
 だが、それで引き下がる気は、護衛士達にも毛頭無かった。
(「こちらの信念を、ぶつけるしかない……!」)

●滅びの宿業
 世界の真実、そしてトロウルこそがランドアースの統治者たる種族であると大神ザウスから告げられた護衛士達。彼等は、それでもなおトロウルとの和平への糸口を求めるべくザウスへと自らの信念をぶつけていった。
 アーバインとアルトは、自分達を睥睨するザウスの目を見つめ返す。
「確かに人間は過ちを繰り返します。ですが、同時に。より良き未来へと向かう意志を持ちます。見知らぬ友への餞のために。そして、まだ見ぬ子供達への明日のために」
「これからを、人の手に委ねるわけにはいかないのですか……?」
 過去を見ず、自分達の未来を信じて欲しい。
 そう伝える護衛士達を、しかしザウスの『声』は否定した。
『未来を望む意志は、容易に力を求める貪欲さに変じよう』
「一人一人が、より良い明日を望む意思を理解してくれ! 言葉じゃ尽くし切れないが……俺達は、どんな試しでも受ける覚悟はある!!」
「その信念を、子や孫へ受け継がせたい……私達は、そう考えているよ」
 ウルカとシェネットの決意が、大神の間に響き渡る。だが、
『汝らの限られた知恵では、たとえ幾許かの崇高なる意志に辿り着いたとしても、それを子や孫に等しく普遍する事はできぬ。汝らの思考はやがて必ず歪み、終にはドラゴンへと至るのだ』
 その思念に微かな悲しみの色すら宿らせて、大神ザウスは告げた。
『ドラゴンと化した汝らは、世界の全てを破滅させる。それこそが、汝らが祖先であるヒトより受け継いだ宿業である。……そして、その時は遠からず訪れよう』
「僕達が、生まれ持った罪……?」
 オルフェは半ば呆然と呟いていた。
『ドラゴンとしての力を得た汝らは、世界を滅ぼし尽くした後、虚空にて命を永らえる事すら出来よう。だが……』
 護衛士達に考える時間を与えるように、ザウスは一度言葉を切り、そして問い掛ける。
『それで、良いのか?』
 かつて、ザウスと共にドラゴンと化した古代ヒト族を打ち払った神々はこの世界を見捨てた。強大なドラゴンが生まれた時、それを止める者は、もはやいないのだ。即座に返す言葉を持たない護衛士達の中、レイは確たる決意を篭めて、ザウスを見つめる。
「私達は……滅びなど望まない」
「この世界を護る為ならば、我々はどんな困難も受け容れましょう!」
 アーバインが続ける。二人の震える声に対し、大神ザウスは静かに告げた。
『汝らが来たるべき滅びを避ける術は、唯一つ……我に従う者となる事である』
 はっ、とした表情で、ヤトはオウカに視線をやった。視線を受け、オウカは固い表情で首を横に振る。潜入部隊に、交渉権は無い。同盟諸国への降伏勧告であれば、それこそ円卓に持ち込まねばならない様な内容だ。
 だが、ザウスが続けて告げたのは、同盟諸国の降伏を求めるものでは無かった。
『我に従うのならば、まず汝ら一人一人がその証を我が前に示せ。さすれば、汝らもまた我の愛し子とし、全ての幸福と力を授けよう』
 大神の間に集うトロウル達から、どよめきが起こる。
 それがいかに特別な事であるか、護衛士達にも瞬時に知れた。マサトがザウスに視線を向ける。
「それって……俺達に忠誠を誓えって事か?」
 ヤトとラティメリアが呆然と呟いた。
「もし今ここで忠誠を誓い、そして同盟諸国もまた同じように忠誠を誓うと決めたなら……」
「もうトロウルと戦う必要は、無くなるかも、しれない……」
 それは、予測すらしなかった形ではあれど、このランドアース大陸を苦しめ続けて来た戦争を終わらせる、1つの手段である事は間違いない。
 リュティークは入り口の方へと目を向けた。
(「もし、拒否したら……」)
 まずは大神の間に集ったトロウル達を突破し、オグヴ護衛士団のピルグリムトロウル達、それに、地上への道を阻むであろうトロウル達を打ち破らねばならないだろう。
 大神ザウスは表情を変える事なく、ただ静かに護衛士達の答えを待ち受けていた。


マスター:真壁真人 紹介ページ
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
参加者:15人
作成日:2007/04/26


【最重要】滅びの宿業【アンケート〆切 4/27 8:30】 菓子納豆の霊査士・オウカ(a04194)

場所:脱出ルート   2007年04月26日 10時   発言数:16
●滅びの宿業
 世界の真実、そしてトロウルこそがランドアースの統治者たる種族であると大神ザウスから告げられた護衛士達。彼等は、それでもなおトロウルとの和平への糸口を求めるべくザウスへと自らの信念をぶつけていった。
 アーバインとアルトは、自分達を睥睨するザウスの目を見つめ返す。
「確かに人間は過ちを繰り返します。ですが、同時に。より良き未来へと向かう意志を持ちます。見知らぬ友への餞のために。そして、まだ見ぬ子供達への明日のために」
「これからを、人の手に委ねるわけにはいかないのですか……?」
 過去を見ず、自分達の未来を信じて欲しい。
 そう伝える護衛士達を、しかしザウスの『声』は否定した。
『未来を望む意志は、容易に力を求める貪欲さに変じよう』
「一人一人が、より良い明日を望む意思を理解してくれ! 言葉じゃ尽くし切れないが……俺達は、どんな試しでも受ける覚悟はある!!」
「その信念を、子や孫へ受け継がせたい……私達は、そう考えているよ」
 ウルカとシェネットの決意が、大神の間に響き渡る。だが、
『汝らの限られた知恵では、たとえ幾許かの崇高なる意志に辿り着いたとしても、それを子や孫に等しく普遍する事はできぬ。汝らの思考はやがて必ず歪み、終にはドラゴンへと至るのだ』
 その思念に微かな悲しみの色すら宿らせて、大神ザウスは告げた。
『ドラゴンと化した汝らは、世界の全てを破滅させる。それこそが、汝らが祖先であるヒトより受け継いだ宿業である。……そして、その時は遠からず訪れよう』
「僕達が、生まれ持った罪……?」
 オルフェは半ば呆然と呟いていた。
『ドラゴンとしての力を得た汝らは、世界を滅ぼし尽くした後、虚空にて命を永らえる事すら出来よう。だが……』
 護衛士達に考える時間を与えるように、ザウスは一度言葉を切り、そして問い掛ける。
『それで、良いのか?』
 かつて、ザウスと共にドラゴンと化した古代ヒト族を打ち払った神々はこの世界を見捨てた。強大なドラゴンが生まれた時、それを止める者は、もはやいないのだ。即座に返す言葉を持たない護衛士達の中、レイは確たる決意を篭めて、ザウスを見つめる。
「私達は……滅びなど望まない」
「この世界を護る為ならば、我々はどんな困難も受け容れましょう!」
 アーバインが続ける。二人の震える声に対し、大神ザウスは静かに告げた。
『汝らが来たるべき滅びを避ける術は、唯一つ……我に従う者となる事である』
 はっ、とした表情で、ヤトはオウカに視線をやった。視線を受け、オウカは固い表情で首を横に振る。潜入部隊に、交渉権は無い。同盟諸国への降伏勧告であれば、それこそ円卓に持ち込まねばならない様な内容だ。
 だが、ザウスが続けて告げたのは、同盟諸国の降伏を求めるものでは無かった。
『我に従うのならば、まず汝ら一人一人がその証を我が前に示せ。さすれば、汝らもまた我の愛し子とし、全ての幸福と力を授けよう』
 大神の間に集うトロウル達から、どよめきが起こる。
 それがいかに特別な事であるか、護衛士達にも瞬時に知れた。マサトがザウスに視線を向ける。
「それって……俺達に忠誠を誓えって事か?」
 ヤトとラティメリアが呆然と呟いた。
「もし今ここで忠誠を誓い、そして同盟諸国もまた同じように忠誠を誓うと決めたなら……」
「もうトロウルと戦う必要は、無くなるかも、しれない……」
 それは、予測すらしなかった形ではあれど、このランドアース大陸を苦しめ続けて来た戦争を終わらせる、1つの手段である事は間違いない。
 リュティークは入り口の方へと目を向けた。
(「もし、拒否したら……」)
 まずは大神の間に集ったトロウル達を突破し、オグヴ護衛士団のピルグリムトロウル達、それに、地上への道を阻むであろうトロウル達を打ち破らねばならないだろう。
 大神ザウスは表情を変える事なく、ただ静かに護衛士達の答えを待ち受けていた。

============================================================
【マスターより】

 このアンケートは多数決ではなく、一人一人が自分の行動を決定するものとなります。
 上記の文章を確認の上、それぞれの行動選択肢によって生ずる影響を、しっかりと考えて行動を決定して下さい。
 アンケートに回答しなかった場合は、「1.大神ザウスに忠誠を誓わない」を選択したものとして見なします。

 なお、選択の結果によって戦闘が生じた場合、使用する装備品やアビリティについては、シナリオ『大神の間』でのものが反映されます。

 アンケートの締め切りは、4/27の朝8時30分となります。
 1. 大神ザウスに忠誠を誓わない
   (15)
 2. 大神ザウスに忠誠を誓う
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蒼銀の怠け娘・ラティメリア(a42336) 2007年04月26日 12時
今の世界中から争いと言う争いをすべてを無くすのが、私の夢。その為に命を賭すことも厭わないと思ってた。だけど物事俯瞰で語って、あまつさえ強引な忠誠誓わせようって輩について行こうなんて思えないね! 私の幸福はあんたは持ってない。力は争いがなければいらない。世界が滅ぶならそれはその世界の運命。それを避ける為に努力はすれど、自分を曲げるつもりはないっ! (1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
不完の盾・ウルカ(a20853) 2007年04月26日 13時
過去にそんだけ裏切られて、なお残る愛ってのは染み入るな。だが、何でも決めてやるってぇ過保護は親にも子にも良くねぇと思う。不出来な子供の末裔として、ザウスを過去の負い目から解放してやりてぇ。俺らが俺らを律する形はこれから模索すしかねぇが、必ずやる。こいつは反逆じゃなくて子供の自立だ。(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
久遠槐・レイ(a07605) 2007年04月26日 15時
貴方に謝意も罪悪感も抱いている。貴方達と共に生きたいと願っている。滅びの為の力なんて望まない。行き過ぎた力を捨てろと言うなら従っても良いとも思ってる。世界を滅ぼす者に全てを掛けて挑む意志もある。…でも、世界を滅ぼすかもしれない者を全て殺す事を私はしたくない…。私が望むのは数多の人々が悩み苦しんで業を克服した世界…。愚かでも無様でも、まだ生きて足掻いている私達に…無駄だと告げて嘆いたりしないで…。貴方が最も望んでいた理想に私達が辿り着ける可能性もある筈、だから…!(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
赤眼の優男・アーバイン(a50638) 2007年04月26日 19時
貴方が経験した経緯から鑑みれば、それらの否定は確かに頷ける……ですが、それがこれからも繰り返されるとは限らない。昨日に学び、明日のために、今日をどうするかを考える……それもまたヒトの可能性ではないのですか!? 今、安易な手段を取るならば、可能性を狭めるならば……この戦いがよりよい明日の礎になると、願って死んだ者達に何と言えばいい!? 子はいつか一人で立つ……今が、その時ではないのですか!?(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
正義の矢・リュティーク(a27047) 2007年04月26日 19時
まず理性的に。自ら語ったとおり貴方は全能ではない。貴方の言葉は予言ではなく、唯の主張に過ぎないわ。そして感情的に。貴方は仲間を、貴方に殺された家族を、よりよい世界を作ろうとした皆の努力を否定した……そんな者に頭を下げて生きる人生なんて、真っ平ごめんよッ!!(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
温かき風の便り・ミヤクサ(a33619) 2007年04月26日 20時
古き時代の事が全て悪いとは言えません。過ちに気付いたからこそ古代ヒト族は書物という形で私たちに思いを残しました。私は、小さな子供の・・・懸命に生きている人たちの・・・未来を無に返すわけには行きません。ヒトの命は一回限りなのですから。(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
観察者・ヒリヨ(a02084) 2007年04月26日 23時
幸福も、力も、他人から安易に貰える物は所詮は仮初です。自分自身の努力でそれを得ようとしなければ、その本当の大切さも意味も自覚は出来ないでしょう。分不相応な物に溺れる事こそが悲劇の発端だったのなら、あなたから力を貰う事も竜になる事も根本は同じことなのです。ただ求め続けた昔と、何かのために自ら力を高め過ちの時代も知った今。その違いから出来る可能性を僕は選びます。古代の先祖の過ちから大地を救って頂けた事にはこの大地に生きる者として感謝はしていますが……いつか、あなたが世界という容器だけではなく、人を含めたこの世界というそれそのものを愛せる日が迎えられるよう、願っています。(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
業物収集家・アルト(a49360) 2007年04月27日 00時
断りますが、一応…無理でも交渉。「お断りします、考えない存在になるのはつまらないことだと思います。」/「我々も情報を持ち帰って検討せねばなりません。誰かが死ねば、まともに検討も出来なくなりますので、ここは一度全員戻って皆で考える機会を与えてくださいませんか?」(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
犬尻尾のおふくろさん・シェネット(a09566) 2007年04月27日 00時
滅ぼしつくしてまで命を得たいとは思いません。ですが・・・滅びを避けるためには、本当に、あなたに従うことしかないのでしょうか?人は間違いを犯してしまいます。が、人はその間違いを正すよう、動くことができます。そうして人は成長します。いつまでも、同じままではありません!(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
灰中落花・イエンシェン(a30743) 2007年04月27日 01時
貴方にとっては偽りの神話かもしれませんが、私達に伝わる神話の神様はヒトにこう言います。「お前達は、もはや我々の助力を必要としない。自らの未来を自らで作り出すのだ」と。今、ここで忠誠を誓い、貴方の庇護下に収まるのは幸福なのかもしれません。ですが、それは私達が作った未来ではないのです。ドラゴンに至りたいのでも、神様をも越える力が欲しいのでもありません。私は、幸せな未来を作りたいのです。未だ不完全な知恵しかないけれども、過去より学習する事の出来る私達をもう少しの間信じて下さいませ。(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
蒼月の夜猟者・ヤト(a31720) 2007年04月27日 01時
創世主、造物主として、感謝はしている。しているが・・・忠を誓え?悪いが『忠臣、ニ君につかえず』、だ。俺が忠を誓った王は既にいる。 それ以前に・・・信用のならぬわ、得体が知れんわ、そんなもんに掛ける命なんぞ、元より俺は持ち合わせおらん。(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
鱗はお茶の味・オルフェ(a32786) 2007年04月27日 02時
へんなの。グリモアの力には、区別はないのに、あなたを崇めないだけで、邪悪扱いなんて。僕には、今一番力を求めているのは、『ザウス神』って言われてるあなたのようだと、に感じる。経験に因らない力なんて、いらない。貰い物の力は、自分を潰してしまうもの。いまの、自分があるのは、経験で、培ってきた力があるからだ。あなたに『忠誠を誓う』ことは、それを、全部否定することになる。(……もしかしてキングスマインドの頭部コアに座ってたのかな?(とか想像中))(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
四天裂く白花・シャスタ(a42693) 2007年04月27日 07時
トロウル式のザウス大祭のようなものに参加する事になったら堪らない、というのもありますが。俺達に知恵が足りないというのなら、神もまた全能では無いのでしょう。ならば、信仰や忠誠の名の下に神に何もかも押し付けるよりは、自分の足で立って生きたいと思います。……届かぬ空を仰ぐ、我が紋章に懸けて。(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
魔法の三号戦車少女・キッカ(a19505) 2007年04月27日 08時
ボクはホワイトガーデンでのんびり生きてからね知らない事がいっぱいのこの世界で見聞を広めていつか冒険譚を書きたい…それがボクの夢。無知だからこそもっと学ばせてはほしいけどね。不必要な力はいらないし、ボクはこうやって神様に会えて色々見聞きできてそれだけで幸せ…だから貰わなくても事足りてるですの。(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)
赤黒眼の狂戦士・マサト(a28804) 2007年04月27日 15時
忠誠・非忠誠,どちらも正しく、どちらも間違い……所詮この世は「表」と「裏」があるからこそ,成り立つ。だからこそ面白いんじゃないかなぁ?神さんの話じゃ切羽詰ってるみたいだが…まぁなんだ、「答えを知っている問題」程「無意味に生きざるを得ない」。序に言うと「力」は、『自ら「手に入れる」事で、始めて「力(武器)」の重要性がある』と思う。「武器」と「凶器」の区別を知らない神さんがこんな話をすること事態間違っていると思う!………って!カッコつけてみたけどぉ、どうよ?スケールの違いがあれど結局はお互いやってる事変わんないんじゃない?だからこれ(ポチ(1. 大神ザウスに忠誠を誓わない)


【スレッドリプレイ】剛力鳴動 菓子納豆の霊査士・オウカ(a04194)

場所:脱出ルート   2007年04月27日 17時   発言数:1
 大神ザウスに対し、護衛士達はそのことごとくが忠誠を誓う事を拒否した。
 そして神の意志を否定し、己の心を叩き付けたのだ。
 その事実を受け入れられないのか、大神の間に集う穏健派のトロウル達が絶句する気配が伝わって来る。
「期待をかけた、わしが愚かであったのか……」
 振り返る護衛士達の目に、意気消沈した様子で大神の間の床に両手をつく一人のトロウルの姿が映った。フードの下から覗くその顔は、日輪の戦刃ボルテリオンの護衛士達を大神ザウスとの会談にまで導いた穏健派の筆頭たる神官、バレジンのものだ。
 大神の間の床に平伏す彼を、周囲のトロウル達が気の毒そうな目で見つめている。その多くは穏健派なのだろう。彼等の間に漂う暗い雰囲気は、護衛士達の選択への困惑と、これからも戦が続くという事実への落胆から来るものか。
 『自らが何者であるかを示してはならない』という『清めの儀』の定めを破っている事にも気付かぬ様子で、彼ははらはらと涙を流し続けている。

 そして、大神ザウスの『声』が護衛士達の心に再び響いた。
『ヒトは己を省み、成長する……かつては我をはじめとする神々もそう信じ、グリモアを託した』
「ならば、もう一度……私達を、信じてはもらえないのですか?」
 イエンシェンの問いかけを、しかしザウスは否定する。
『確かに、ヒトは一時は己の過ちを悔いたかもしれぬ。
 だが、ドラゴンがこの世界から追放された後も、平和を求めるという名目の下、争いは絶える事無く続いて来た……。
 その事実こそ、汝らが崇高なる意志を伝達出来ぬ事の証明に他ならぬ。
 どうして此度の決意のみを忘れぬと言えようか?』
「それは……」
 ウルカは言葉に詰まった。
 護衛士達の決意は確かなもの。
 だが、それが手段を伴わない意志のみでしか無い事も、また確かだった。

『力を望まぬ意志は、万民に行き届かねば意味を持たぬ。
 力を求むる者の一人が最初の真なるドラゴンに至った瞬間、いかなる崇高なる意志も、ドラゴンが持つ強き力の前には容易くその意味を失うのだ』
 その言葉に、ヒリヨはちらりとバレジンの方を見た。
(「トロウル王国で、『ザウスの教えを民に伝える』役目を持つ神官が、高い地位を得ていたのはそういう訳ですか……」)
 護衛士達の中でも激した様子で反駁したリュティークやラティメリアの心に、大神ザウスからある思念が伝わって来る。
 それは、『哀れみ』の念。
 自らの愛したヒトの末裔達が滅びの道しか歩めぬ事を、大神ザウスは確かに哀れんでいた。
『自分達が特別であるとする錯覚。
 己の心を、世界の行く末よりも優先せんとする我欲。
 そして、神の愛を受けし者のみが避け得る滅びを、己も避け得るとする傲慢さ……。
 その思考こそ、汝らがドラゴンに至る証に他ならぬと、何故気付けぬ』
 厳かな大神ザウスの『声』には、同時に強い諦念が宿っている。
『我は、世界が歓喜に満ちた姿に戻る事を願っていた……だが、もはやそれは叶うまい。
 我が愛し子達は汝らによって滅びの淵に立たされ、そして汝らがドラゴンと化す事は必定』
「そんな、諦め……」
 言いかけて、シェネットは言葉を止めた。護衛士達には想像すらつかない程の長い年月を経て来た大神ザウスだからこそ、持ち得る諦めなのだろう。
『汝らの及ぼす害悪は、いずれ神の世にも至る。
 そうなる前に、我自ら、この大地の命脈を絶とう……。
 それが、先にこの世界を去った神々のために我が為し得る、唯一の責任の取り方だ』

 その言葉の意味を護衛士達が理解するまでには、一瞬の間を要した。
 大神ザウスも、他の神々と同様に、たった今この世界を見捨てたのだ。
 そして、その絶対的な決断をもたらしたのは、護衛士達の発言に他ならない。

「そなたらは、平和を愛しているのではなかったのか!? その心があれば、大神ザウス様の遠大なる御心を理解出来るであろう!? 今ならまだ間に合う、考え直すのだ!」
「……理解出来ないんじゃない。ただ、従えないだけ……」
 レイが悲しげに呟く。
 なおも護衛士達へと声をかけるバレジンは、オグヴ護衛士2人に肩を掴まれ、大神の間に存在する唯一の出口、大きな扉の方へと引きずられていった。
 清めの儀に参加していた信徒達が、その行く手から一斉に退く。
 その瞬間だった。

「今だよ!!」
 フィサリスが声を張り上げると共に、護衛士達は一気に走り出した。
 同時に気を失ったオウカを、マサトがキッカの背に乗せる。
「隊長だけでも、逃がさないと!」
「ううん、隊長だけじゃない……生きて帰るよ……みんなで!」
 立ち塞がらんとしたピルグリムトロウルに、アルトはナイフを手に立ち向かう。次々と繰り出される攻撃の前に傷つく体を、ラティメリアの凱歌が癒す。
「成る程。確かに戦い嫌いの穏健派か、対応出来ない奴しかいないようですね」
 こちらの人数は17人。
 霊査士であるオウカは戦えず、そしてオウカを背負うキッカもまた戦いには参加出来ない。
 だが、非冒険者の穏健派達の動きをシャスタの粘り蜘蛛糸が封じ、前衛の者達が門兵のピルグリムトロウルを押さえ込めば、護衛士達が扉から脱する事が可能となる。
「戦嫌いの穏健派と、ダメなヤツしかいないってのは本当みたいだな!!」
「オグヴ護衛士団が本格的に出て来る前に、逃げるぞ……!!」
 叫びと共に大神の間の扉を突破するその時。
 オルフェは、自分達に向けられる昏い視線に気が付いた。
「……バレジン」
 視線の先、バレジンは護衛士達がこれまでに見た事の無いような暗い声音で言う。
「貴様等の腐った魂が、滅びを呼ぶのだ。大神の御心を理解しなかった報いを受けるがいい」
 彼の姿は、戦いの喧騒の中ですぐに見えなくなった。
 そして、護衛士達の耳に、大神ザウスの『声』が聞こえて来る。

『大神ザウスの名において、神命維持機能の設定を解除する。転移機構を作動開始。転移目標地点設定、空中要塞レア』

 いかなる力によるものか、その『声』は、剛力の聖域オグヴ全域に響き渡る。
 同時に護衛士達の周囲にあった機械が鳴動を始めた。次第に激しくなる明滅と共に、天井からぱらぱらと土の塊が落ちて来る。
 その響きが続く中、ミヤクサは背にかかっていた絶対的な威圧感が消えた事に気付いて振り返り……そして、驚きの声を上げた。
「大神ザウスが……消えた!?」
 大神の間、その最奥にいたザウスが、姿を消した。
 その事実が何を意味するのか、考える時間は護衛士達には無かった。

「神への反逆者どもを、この地から逃がしては、オグヴ護衛士団の名が泣くぞ!! 一人たりとも、生かしてここから出すな!!」
「危ないっ!」
 横合いから飛来した矢が、オルフェの肩に突き刺さる。
「くそっ、とにかく逃げるぞ! 今は、それしかねぇ!」
「でも、どこに!?」

 穏健派の助けは、もはや無い。
 ここは敵地であり、集う敵の数の数は護衛士達にとって絶望的としか言えないものだ。
 孤立無援。
 その言葉の意味が、彼等を追うトロウル達の声として護衛士達の背中に、圧し掛かっていく――。