<星凛祭の準備 〜月下の高台>

●月下の高台
 小高い丘の上にある、高台を掃除し終えた静かなる森の子・クリエル(a05691) が額に流れる汗をぬぐって一息ついたころだった。
「不審な人物を見張るのも、ここが一番よさそうですねー」
 巡回班の燃えるにゃんこ料理人・ロジャー(a05286)が独り言の割りに聞こえやすい声で話しながら歩いて来るのに、クリエルは気がついて声をかけようとしたのだけれど、それを遮る様にロジャーはくるりと眼下の風景を見るように背を向ける。
「当日は迷子の保護とかトラブルの仲裁っすかね〜。後は美人が居ないかの観さ……」
「コホン」
 何か非常にまずい言葉が飛び出る前に、お淑やかな咳払いがひとつ。
「!!」
「……」
 飛び上がる様にして背筋が伸び上がるロジャーに、呆然と見つめるしかないクリエル達に、若葉を透かし舞い散る銀緑・ローダンセ(a19506)がやれやれと言いたげに肩をすくめて見せる。
「手分けしての会場設営の準備もお手伝いを致しましょうと来てみれば……」
「あーいやいや。仕事はしてますってば」
 本心から、それは本当だとロジャーが説明しようと周囲を見渡した瞬間に、クリエルと視線がぶつかった。
「……クリエルさん、いつからそこに?」
「『不審な人物』くらいからです……御免なさいです」
「……」
 何故か誤ってしまうクリエルだが、笑顔で誤魔化そうとしたロジャーの顔面が引きつって、横で居たローゼンタは処置無しという表情で肩をすくめている。
「キナイの方々とのトラブルが無いように、丁寧な対応など心が無ければいけないといいますのに……」
「……いや、仕事は本気で。これは本当ですから」
「……」
「……」
 沈黙の帳が女性二人の前に下りている。
「……あの……」
 クルリと振り向いたローゼンタとクリエルの背中がロジャーには寂しかった。
「さ、クリエルさん。あちらをもう少し掃除したらおしまいですね」
「そうですね」
「あのー……」
 イジめられてますか? そんな言葉が脳裏に走りながら、落涙するしかないロジャーと、笑い出したいのを堪えているのだった。

「ただいま〜!」
 巫女さんふぁいたー・チトセ(a30031)が星凛祭の告知を終えて帰ってきた。
「ん? アスラ殿も一緒でござったか?」
「へ?」
 蒼風の流浪人・カグヤ(a41685) に言われて、チトセが振り返ると真顔でボケる・アスラ(a65123)が真顔で首を横に振っている。
「クウェル殿、チトセ殿が東に向かわれたので、それとは別の村を回って催し物は何がよいかなど聞いてみて……ちょうど今、帰ってきたところだ」
「へぇ〜」
「いやそこ、自分も行って来たばかりなんだから感心しないでござるよ」
 真顔で感心しているチトセに突っ込むカグヤ。
「かなり手広く話を回せた様じゃないか? 遠方から来る輩には移動の道中不安もあるだろうから、戻るときは護衛も兼ねようかね。そうすりゃ安心して祭に来られるだろう?」
「確かに、それは名案だね!」
 烏夜之曉・シンザ(a45473)が往路で感じた道のりの感想を彼なりに評したのだが、チトセは感じ入った様子で、確か他の武士団にも要請が行っている筈ですよねと、乗り気である。
「……何時から、そんな話になっていたんだ……」
「ざっと見、そんな剣呑な場所は無かったとお能のですがね」
「いまお帰りかな、ジュダス、クゥエル」
 チラシを配り終えたのか、鎮圧の黒翼・クウェル(a46073)が慣れた者にしか判らない微妙に満足げな表情で立っていた。
 ヒトの剣聖・ジュダス(a12538)はシンザとアスラと共に、クゥエルのチラシで配布前の準備校を見て沈黙しているのだが、他の皆は気がついていない様子だった。
「……ある意味、前衛的ですね?」
 ジュダス談。
「色々な意味で、こちらの方々の目を引きそうだ。……別の意味で引かないと良いがな」
 シンザ談。
 色々な思いの交錯する中、準備は進んでいくのであった。