<星凛祭の準備 〜笹舟橋>
●笹舟橋
「ここで良かったかしら?」
「んー。たぶん……あ、いやそこでいいから。ウン」
ゴミを拾うのにいつの間にか必死になっていた緑陰・ピート(a02226)が背後の殺気に気がついて振り返り、慌てて首を縦に振る。
「ランナーズハイならぬ、スゥイーパーズハイ? 楽しそうなのは良いけれどね」
召喚獣グランスティードから降りて、集めたゴミを下ろした紅刃炎舞・ヴィラ(a26144)が呆れた口調でピートにズイと迫る。
「ははは。掃除なんてと思ってたけど、ね……」
振り返って見れば、笹の葉が擦れる音が聞こえる小道が整然とそこに在り、彼らが掃除をする前と今では、見違えるような姿をそこに横たえている。
「五十年以上、整備されずに放置されていた場所でも……造りはしっかりしているものね」
歩くのに邪魔な物を除けて、狭かった道は綺麗にもとの役割を果たすために林の中を抜けている。
「人手が無いと、正直大変でしたけれどね」
「そうですわね。でも、これで準備は整いましたわね……」
ゴミを片付けながら鬼を狩る黒狐・ヒリュウ(a12786) がふむと、掃除の具合に満足して頷いている横で、氷雪舞の狩人・ヒミカ(a25982) が言葉を途中で止める。
「ん?」
「何かな?」
ヒミカの視線の先を追って、ピートとヒリュウが小道の奥を覗き込むと、大きなトカゲがのっしのっしと笹を背負ってやってきた。
「笹屋〜笹竹〜」
「……ゼオルさん、それは……」
「いやいや、私の仕事はこれからですのでお構いなく」
ピート、ヒリュウにヒミカの兄妹達が見慣れた働くおじさん風の魔を阻む轟雷・ゼオル(a18693) に、ヴィラは開いた口が少し閉じられない模様だった。
「各村々を廻ってお祭り準備を手伝いますよ。では、皆さん笹はいただいて行きますよー」
のしのっしと、刈り取られた笹の山が動いて行く。
力仕事は任せて下さいと、本人が言うだけにゼオルが持ち出した笹が街道沿いの村々に配られて、遠くて参加の出来ない者達に在り難がられるのはまた別の話である。
「ゼオルちゃんは働き者なのね〜」
「そうですね、助かります」
「おや。今帰りかな?」
星射抜く赫き十字架・プミニヤ(a00584) と鎮東将軍・ツカサ(a00973) が数人の武士と思われる集団とこの地の民らしき少年と共に歩いてくるのを見て、橋の具合を職人と共に確かめていた蒼の閃剣・シュウ(a00014)が珍しいと声をかける。
「ちょうど今、此方の警備体制の準備を元アルガの武士団の方々や近隣の村長の方々と話し終えてきたところですよ」
「私も、ちょっと野暮用が終わったところにゃりよ」
一抱えの笹を手に、少年と共に歩いていたプミニヤは誇らしげに胸を張る。
「そうですか。それは良かったですね」
「会場の方はもう少し時間がかかりそうだけれどね。そろそろアスラが……ああ、来た来た」
国事に近い神事だからと、星凛祭の準備に手落ちがあっては大変だからと地元の職人に声をかけていたシュウは、早速不足しがちな材料を復興の作業に当てていた場所から借り受けてきていたのだ。
「此方でいいのかな?」
肩に負っていた荷物を下ろして、固まっていた腕をひとつ回して静寂をもたらす天使・アスラ(a65123)がシュウに向き直る。
「戦のない時の労働は慣れているが、これだけ離れているとは思わなかったな」
「悪い。こちらから行けば良かったのだけれど、一緒に修理箇所を見て回っていたら思ったより時間がかかったみたいだ」
「そんなに、危険な箇所が多いのですか?」
それは困ったですねと、考え込むツカサに苦笑したシュウとアスラが肩をすくめて見せる。
「いやいや、補修って言っても、欠けた、見栄えの悪い場所を隠す作業だから危険だって言うところはないみたいだよ」
「こちらに持ってきた物も、塗料や漆喰くらいのものだ。だから時間さえあればといったところだな」
「それは良かったです」
折角警備体制が整ってもと、憂いた表情であったツカサの表情が晴れる。
「会場周辺の清掃は終了、近隣への笹の配達も始まった……」
作業を指折り確認するヴィラ達に、プミニヤが別れを告げる。
「それじゃ、私はこの子達を連れて行くのね」
「ほかの場所? ゼオルにお願いして笹を持って行って貰おうか?」
「そうそう。あれが最後のゼオルとは思えないし……」
アスラとシュウが好意としゃれ交じりで言うのに、少し考えた様子でストライダーは返した。
「あ〜。人見知りする子が多いから……離れた場所でしたほうがいいと思うのね。だから、気持ちだけでもうれしいと思うのね」
少年を誘いながら、プミニヤは会場を後にする。
「人ぞれぞれ、楽しみ方はありますしね」
「そうですわね。ささ、そろそろ休憩も切り上げませんと」
ヒリュウが言うと、ヒミカが手を叩いて作業の止まっていた者達を促した。
橋に続く道。
欄干の磨き上げられた朱塗りの橋。
年代を感じさせつつ、手入れの行き届いた姿に戻る場所を、護衛士達は後にするのだった。
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