<星凛祭の準備 〜お祭り広場>

●お祭り広場
「今年もまた、この季節がやってまいりましたのね」
 感慨深いですわと、絆を求める巫女姫・スイ(a13578)が露店の準備に余念無く、作業を進めているのを見てあわゆきの君・イズモ(a04527) が遠慮勝ちに声をかける。
「えらくお久しぶりですけど……巡回の立ち寄り所はこちらで良いですか?」
「ああ、そうですわね。此方で良いと思いますよ」
 氷を置く台の足元を気にしていたスイが周りを見回して頷いた。
 巡回の人間が、人の行き交う場所に溜まる訳にもいかないだろう。
 加えて言えば、スイが催す予定の飲食物は、今年はアイスクリームを出せればと考えている。
「子どもにはプレゼント〜♪」
 と、スイの隣で押したら愛情が沸いて来そうな勢いで練り込んでいる愛を紡ぐ・シャム(a14352)の様子に、イズモが
「確かにお隣では……」
 と、苦笑するのに釣られてスイも笑う。
「ん? ヴイ! この前覚えたばかりなのよ〜」
 と、材料まみれの手で『V』と指を突き出してくるシャムの頬には、餡このお化粧が所々飛んで出来ている。
「『練り切り』ですか〜」
「そそ。動物とかお客さんの形に作って、出そうと思うのよ」
 勿論お子様にはプレゼントでと、片目を瞑ってみせるシャム。
「ホッホッホ。若いですのぉ」
 ひぐらしが鳴く頃に〜翁〜・サバイヴ(a45939)が医療品の供えを確認したあとの休憩がてら、お茶をすする音が聞こえてくる。
「あーおじいちゃん。コレ食べてみてくれるかな〜」
「……(毒見?)」
「……(毒見?)」
「ホッホッホ」
 剣呑な呟きを聞きながらも、好々爺の微笑でサバイヴがシャムの作った練り切りを口にする。
「ふぉっふぉっふぉ……」
 ピタッと。
 老ドリアッドの動きが止まった。
「……」
「……」
 無限に思える数秒間の沈黙の後に、まだ動かないサバイヴにイズモが慌てた声をかける。
「……お、おじーちゃん!?」
「……っ! ホッホッホッホ。いかんいかん。眠っておったようじゃわい。うまいぞシャムお娘ちゃん」
「いよっしゃー!」
 休憩所で休憩じゃわいと、己の準備した場所をさり気無く宣伝するサバイヴに、疲れた表情になる二人と、腕まくりでガッツポーズのシャム。
「あちらはもう準備中だよ」
「少し出遅れましたか。お手伝い、ありがとうございます」
 巡回の準備にと、お祭り広場の準備に来ていた自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913) に助力を願っていたのは無翼の燕・アーカム(a36143)だった。
「ところで、この店構えは何かの販売かな?」
「ええ。今年は桜や緑茶といった、楓華にあるものを原料としたリキュールを使ったカクテルバーを出してみようと思います。まあ簡単な食事も用意しますので、下戸の方にも楽しんでいただけるかと……勿論、未成年の方には止していただきますけれどね」
 じーっと、ファンバスと魂に宿る鋼焔・トオル(a46773)の目がカクテルと聴いた瞬間に一歩引いたものになっているのに気がついて、慌ててアーカムが未成年にアルコールを渡す真似はしませんよと繰り返す。
「当日、不審者の有無を巡回する時に未成年の飲酒を摘発なんて、したくないよ?」
「そうだな。折角、年に一度の祭りだ。皆が楽しく、祭の日を楽しんで欲しいものだからな……」
 ふと、遠い目をして広場を見渡すトオルに合わせてアーカムとファンバスも作業の手を止めて会場を見渡していた。
「此方の武士団からも、会場の警護などに人が出ていると聞いているけど、一緒に仕事出来ればいいかな?」
「ああ、この地を護る者達の不興を買わぬ程度にな」
 肩を竦めて見せたのか、トオルのそれとは分かり難い微笑みに、一緒に巡回をしていた牙隠す麗豹・ヴィオレッタ(a32772)が首を傾げて見ていた。
「珍しいですわね」
「そうかな?」
 どちらかといえば仏頂面のトオルが人の営みを思って微笑む姿は見ていて可愛らしいのですけれどと、詰め所で優雅にお茶を嗜んでいたヴィオレッタは口に出さずに呟いて、僅かに唇の端を上げるだけの笑みを見せていた。

「真の色男は金も力もあるもんだ〜とくらぁ♪」
 冒険者の体力で大工仕事の手伝いを続ける炎熱の賭博師・ジョーラム(a05559) の姿に、苦笑するしかない蒼の貴剣・セレネ(a35779)。
「張り切っていただけるのも良いですけれど、準備で燃え尽きないでくださいね」
 勿論、そんな事は在り得ないですわねと、内心で小さく舌を出すセレネであるが、
ジョーラムには彼女の見えない本音までは分かるはずもない。
「任せていただきましょう! セレネさん達が呼び寄せて頂く村々からのお客様にご満足いただけるものを、ご提供出来るように!」
「そうですわね。皆様にとって素晴らしい星凛祭にしませんとね」
「そうそう。お手伝いお手伝い♪」
 力説のジョーラムを軽く流すセイレーンに頷いて同意する巫女装束の紋章術士・カノン(a06752) に、ジョーラムの手伝いでねじり鉢巻の似合う剣刀士・ガイゼ(a19379)は乾いた笑みを浮かべるしかない様子だった。
「ところで、買出し組みはまだ帰らないのかな?」
 永久に我が舞姫の側を望む者・ファル(a33563)が、力仕事を手伝っているガイゼと共に汗を流していたのだが、周囲を見渡してここ数日の間見かけない顔を思い出していた。
「そーいや、ヴェックにマトラの姐さん達……ここしばらく見かけなかったってばよ……」
 今更の様に首をかしげる悪をぶっ飛ばす疾風怒濤・コータロー(a05774)だが、他の護衛士達も似たり寄ったりだった様子で、作業に戻って行く。
「ま、マトラの姐さんにカンナが居たら飢え死にってことは無いだろうし」
「そうだな」
「……どっちの意味で、だろうな」
「そうだな……」
 納得しているコータローとジョーラムに、ガイゼとファルは人間性という意味か、アビリティという意味かとしばし悩んで……。
「さあ、作業だ!」
「そうだな!」
 それ以上、考えることを放棄した。
「そこー!」
「あ、帰って来た」
 言われた三匹……ではなく、三人が帰還していた。
「ひ、人が必死で走って帰ってくれば、何かすっごい事言われてるし!?」
「言うんじゃないよ、どうせアタイらは日陰者。人生後衛裏街道一直線じゃねぇかい」
 肩で息をしている青き雷鷹・ヴェック(a19321) の背中から、ちゃっかり便乗していた召喚獣グランスティードの背を蹴る様にして飛び降りるのは、生まれも育ちも楓華っぽいストライダー、緋乃艶魔・マトラ(a04985)である。
「買い付けに行って来たぜっ!」
 ビッシと、親指を立ててみるヴェックだが。
「姐さん、お勤めご苦労さんです」
「ささ、長旅お疲れさんですカンナ姐さんも」
「ん。ご苦労さん」
「マトラ姐さん良い買い物出来ましたなぁ」
 交渉ごとに長けた笑顔と涙・カンナ(a42258)と組んで買出しの値切りに命を賭けてきたと思われるマトラは至極満足顔。
 完全に足状態だったと思われるヴェックに至っては、完全に無視されているような、ハブにされている様な……。
「あ、ヴェックもお疲れ〜。場所、そこになってるから搬入は早めによろしくな〜」
「……あ、どもーっす!」
 忍者・ハガネ(a09806)達が屋台をくみ上げる横に、こじんまりとした屋台がある。そこを示されて、グランスティードの荷を降ろし始めるヴェックは廃材、資材の置かれた一角を示してあれ良いのかな? と、手近に居たハガネに問いかける。
「そうですね……既に屋台は組みあがった場所ばかりです。特に、今無くなって困る物も無いでしょう」
 念の為に周囲で力仕事にいそしむ者達にも問い合わせた後に、ヴェックは輪投げの投擲用の杭と床を組み始めた。
「……あんたら、知っててやってたネェ?」
「うぃっす」
「完全に、遊んではりますな」
「知らないってばよ〜」
 自称、元テキヤのマトラが雰囲気を出しながら言うのに、値切りの任務完了とばかりにオホホと笑って見せるカンナ。
 横に居合わせるジョーラム、コータロー達は既に何処かの組員の様でもあった。
「でも、変な話やったな?」
 買出しに行って、一緒に色々な噂話を拾ってきたカンナ達は、キナイからの使者が街道を急いでいたと聞いていた。
 其れが何故なのか、誰も聞かされていないのだが……。
「アスカさん、それは皆さんへの出し物であって……おやつでは有りませんです」
「……ダイジョウブ……コレハ……オヤツでは無くて……毒見……食中毒警報……けぷっ」
 百合の舞刃・クーヤ(a09971)の半眼にもめげない対戦車猟兵・アスカ(a10294)の淡々とした表情は、物事に色々言い様はありそうだと教えてくれている。
 クーヤはヴェックの輸送に合わせてアオイサガの方から幾ばくかの食べ物を買い揃えていた。自分達の食料は抑えて、幸せの運び手で食い扶持を減らすなどの方法を取っていたのだが、それは多くの場所で、子供用のお菓子、大人への御酒を振舞える用にとの準備だった。
「ただいまなのだ〜」
「みなさ〜ん、スイカ切ってきましたぁ〜」
 プーカの牙狩人・リーゼロッテ(a59844)の声がして、振り返れば天照・ムツミ(a28021)が村にお祭りの知らせに行って帰ってきた姿が目に入る。
「マナツ姫様にも手紙を届けてきたんだよ」
「間に合うといいね」
 幸せを届ける小鳥・カルナ(a19146)がスイカを一切れ奪いながら、挨拶回りが一応終わったことを報告している横で、『よろず金物修理屋』と書かれた屋台の中でスイカを頬張りながら、中の台の上でせっせと短冊を切りそろえている祈りの言霊紡ぐ・コト(a26394)にも切り分けられたスイカを手渡している。
「準備も、そろそろ終わりですね〜。何とか間に合いそうですね」
 カルナがスイカの種を出しながら口を動かしている。
 暑い夏が、そうすぐそこまで来ているのだった。