『 追憶 』

●追憶の空

 ランララ聖花祭の日、星屑の丘に集うのは楽しげな恋人達。
 だが……。
 チチチ、チチチ。
 小鳥の鳴く声。
 その静かな声に耳を傾けて、静かに過ごす者もいる。
 アゼルは菓子の残りを小鳥にわけ、シェンは涼やかな風に漆黒の髪を軽くなぶらせる。
「どうしたのですか、シェン?」
 そう尋ねたのはアゼル。
 眠っていたのかと思ったシェンの口元に微笑を見つけたから。
「いや、大した事は無い。此処は居心地良いなと思っただけさ」
 風に渡る涼風は、肌寒さを残しつつも身を切るような寒さは無い。
 その中で、晴れた日差しは、少しのぬくもりを肌に与えてくれる。
「そうですね……。ここは良い所です」
 アゼルの紫の瞳と、シェンの青い瞳が少しだけ絡み合う。
 その瞳の中に宿る思い。それは、2人だけの秘密……。
「もう少しだけ側にいていいですか?」
「あぁ、いいぜ。一緒に走るにしても……休息は必要だからな」

 チチチ、チチチ。
 小鳥の鳴く声。
 そこは、ゆっくりと流れる時と追憶の場所。



イラスト: 深町匡