『 貴方のためだけに、この歌を 』

●恋人達の歌

 澄んだ泉のほとり。
 鳥のさえずりに紛れて、優しい歌が聞こえていた。
 程よい日陰を作る木の下で、セルフィナが歌っているのだ。

「そうだ、ここで少し休みませんか?」
 始めは何気ない、このリークの一言だった。
「そうですね。こんなにも素敵な場所ですし、通り過ぎるだけではもったいないですよね」
 セルフィナはうなづく。
 二人は見つけた木陰に座り、泉を眺める。
「………ちょっと横になってもいいですか?」
 少し疲れているのか、リークはそうセルフィナに尋ねた。
 その言葉にくすりとセルフィナは笑みを浮かべる。
「それなら、膝をお貸ししますよ」
「え? でも、悪いですし……」
 そう渋っていたリークであったが、最終的にはセルフィナの押しに負けてしまった。

 照れたようにリークはセルフィナの膝に頭を乗せていた。
「せっかくですから、歌も歌いますね」
「いいですよ。そこまでしなくても……」
 セルフィナは続ける。
「でも、私に出来るのはこれくらいですから……」
 そのセルフィナの笑顔に、リークは弱かった。
「じゃあ、ちょっとだけお願いしますね」

 そして、リークの言っていた『ちょっと』が『だいぶ』に変わっていた。
 リークは、いつの間にか恋人の歌で幸せそうに寝息を立てている。
 セルフィナは膝枕をしながら、幸せそうに歌っている。
 泉のせせらぎと鳥のコーラスが、二人の時間に彩を添えていた……。


イラスト: 弓槻みあ