『 約束の地で君と−腕の中の大切な温もり− 』

●抱きとめる想い

 鳥達のささやかなステージでもある、さえずりの泉。
 そこでアルテアとミュリンは、ささやかなティータイムを過ごしていた。
「あ、ダメっ!」
 ふわりと突然の風に、ミュリンの膝にかけていた白いハンカチが宙に舞った。
 それをミュリンが立ち上がり、取り戻そうとする。
 突然の出来事。
 それにミュリンはとっさに反応したのだが、足がもつれてしまい……。
「大丈夫か?」
 アルテアは、すっと転びそうになるミュリンを抱きとめた。
 それは、倒れる貴婦人を支える騎士のように……。
「ありがとう、アルテアちゃん!」
 けれど、白いハンカチは遠い場所に飛ばされてしまっていた。
 それよりも。
「でも重かったでしょ?」
 顔を火照らせ、ミュリンが振り返ろうとする。だが、それは出来なかった。
「すまない、もう少しだけ、このまま……」
 そのアルテアの言葉が、今の気持ちを素直に表していた。
「アルテアちゃん?」
「………ミュリン、俺はお前を愛しく思う。俺がこの地に来たのはお前に出会う為だったのかも……」
「私もアルテアちゃんに会えて嬉しいよ〜♪ ずっと仲良しだよね!」
 その言葉にアルテアは思わず笑みを浮かべる。
「あれ? 私、変なこと言ったかな?」
「いいや、何も。ああ、ハンカチを取りに行かないと」
 そっとミュリンを放し、アルテアはハンカチの飛んだ方向へと歩き出す。
「待って、私も!」
 アルテアはそっと自分の手のひらを見た。
 先ほどのぬくもりを忘れないように……。


イラスト: 梓乃