『 大切な…… 』

●大切な贈り物

 少女が女神のために花の蜜を集めた花園。
 その花園にちなんで名づけられた場所がこの『朝露の花園』であった。
 リカルドはそこで、心を込めた贈り物をした。
「これは俺からのプレゼントだよ。喜んでもらえると嬉しいんだけど」
「これは……リカルドさんがずっと身に着けていたお守りではありませんか?」
 青い紐に鈴を付けただけのお守り。ずっとリカルドが持ち歩いていたものだというだけで、リンの胸はいっぱいになった。
(「そんな大切なものを贈り物にしてくれるなんて……」)
「やっぱり、別の物がよかったかな?」
「いいえ。嬉しいです……とっても……」
 リンの持ってきたお菓子。それは少し焦げてしまっていた。
(「こんな素敵な贈り物を貰ったのに、お返しがこれだけなんて……」)
 これでは申し訳なさすぎる。
「リカルドさん……」
「何? リ……」
 リンの名を全て言う事は出来なかった。
 それは、リンの唇で塞がれたから。
「本当に、ありがとうございます」
 感謝の気持ちを込めたキス。
「リン……こちらこそ、ありがとう……」
 と、リカルドの目が止まった。
「あれ? これ何かな?」
「えっ!?」
 そういってリカルドが見つけたもの。リンが渡そうと思って持ってきたお菓子。
 こげたシュークリーム。
「良い匂いじゃないか。一緒に食べよう?」
「で、でも……ちょっとこげてしまって、だから……」
 気付けばリカルドは包みを開け、シュークリームの一つを食べてしまっていた。
「うん、美味しい」
「リ、リカルドさんっ!!」
「はい、リンも♪」
 リンの口の中に甘いクリームが広がる。少し焦げたのが、逆に香ばしくクリームの甘味を引き出していた。
「美味しい……」
 その言葉にリカルドは満足そうな笑みを浮かべる。
「じゃあ、また作ってくれる?」
 そんなリカルドの言葉にリンは、頬を火照らせながら頷いたのであった。


イラスト: 綾乃ゆうこ