『 「愛しい人」には敵わない(笑) 』

●二人のチョコレート

 甘い花の蜜が香る朝露の花園。
 その花園にあるベンチに二人は座っていた。
「じゃーん、チッペーさんにプレゼントだよ」
 差し出したのは赤いのリボンが掛かった、プレゼントボックス。
「お前が作ったのか?」
 汗を浮かべながら、チッペーは尋ねる。
「イエース♪ 頑張ったんだよー! さっそく食べてよね♪」
 ナオはうきうきと箱を開け、歪なチョコレートをつまみ、隣にいるチッペーに差し出した。
「はい、チッペーさん♪」
「こ、これを……食えってか?」
 その歪な形に怯えるように後ろに下がる。もう少しでベンチから落ちそうである。
「うん♪」
 半ば強引にナオはチッペーの口にチョコレートを放り込んだ。
「………美味い」
 もぐもぐと食べるチッペー。その顔はまんざらでもないようだ。
「よかった〜♪ 不味かったらどうしようって思っていたんだよね」
 それに満足そうにナオは新たな箱を取り出す。その箱も先ほどのプレゼントと同じように、ピンクのリボンが掛かっていた。それをしゅるっと引き抜き、箱を開ける。
「じゃあ、今度はチッペーさんが僕に食べさせてね」
「……仕方ないな。食わせてやるよ」
 照れながら、チッペーはナオの差し出したチョコレートを一つまみする。
 ナオの差し出す新たなチョコレート。それは明らかに先ほどのチョコレートと形が違う。
「ん? ……って、ナオっ!! お前のはキチンとした奴じゃんかよっ!!」
「えー? 気のせいだよ? いいよ、僕、自分で食べちゃうもんね。……うん、美味しい♪」
 にこにことチョコレートを食べるナオ。
「そうじゃないだろっ!!」
 ぎゃんぎゃんとチッペーは不満をぶつける。
「あれ? まだ足りない? しょうがないなー、ほら、チッペー。いっぱいあるから、安心してね」
「だから、違うだろってばっ!!」
 なんだかんだと言いながら、二人は楽しくチョコレートを食べたのであった。


イラスト: 吉野るん