『 お嬢さん、風邪をひきますよ? 』

●泉のほとりの眠り姫

 その日、エリスはかなり迷っていた。
 既にエリスの手には、大切な人に渡す為のお菓子が準備されていた。
「でも〜もし来てくださらなかったら〜。いいえ、それよりも参加していなかったら、これを渡す事は出来ません〜」
 うろうろうろうろ。
 エリスの飼い猫、チャーリーも一緒にうろうろうろうろ。
 実は当日前から、行くか行かないか迷っていたエリス。
「でも、もし……来てくださって、ずっと待っていらっしゃるのなら〜」
 待ち人が来ないお祭りほど、悲しいものはない。
「そうですね〜、行きましょう〜!」
 やっとエリスは決心した。
 ちなみにかなりの寝不足で。

 チチチチチ………。
 さえずりの泉では、様々な小鳥のさえずりが響き渡っていた。
 その鳴き声が、心地良い。
「つい来ちゃったな……」
 目的もなく、宛もない。なのに……ヨナタンはこのさえずりの泉に来てしまった。
「エリスさんも誘えばよかったかな?」
 ほんの少しの後悔。
「一人でこんなに綺麗な場所……もったいないよ……」
 ヨナタンの口からため息がこぼれる。
 と、ヨナタンの足が止まった。
「にゃーん」
「え?」
 思わず自分の瞳を擦る。
 そこには、愛らしいロシアンブルーの子猫がちょこんと座っていた。
「チャーリー?」
 いやそれだけではない。
「え、エリス……さん?」
 うとうとと寝ているが、泉のほとりに座っているのは、まさしくヨナタンが思いを寄せるエリスであった。
「こんなところにいたら、風邪を引いちゃうよ、起こしてあげないと……」
 と、起こそうとするヨナタンの手が途中で止まる。
(「綺麗……」)
 木漏れ日を浴びる彼女の顔が、こんなに綺麗だとは……。
「あ……おはよーございます……」
 どうやら、ヨナタンの声で起きてしまったようだ。
「あ! お、おはよう、エリスさん」
 少し慌てて、でも、嬉しくて。
 しばらくその泉で語らいながら、二人は笑顔で、幸せな時を過ごすのであった。


イラスト: J.2