『 スタート地点 』

●へとへとに疲れていても……

 ランララ聖花祭の試練を乗り越え、早めにたどり着いたスタインは、メイが来るのを待っていた。
「どうしたんでしょう? 何かなければいいのですが……」
 ほんの少しの心配。
 途中ですれ違う事もなかったはずだ。
「もしかして、迷子って事、ありませんよね?」

 前日から、レモンクッキーをあらかじめ用意していたメイ。
「これだけ早く出発すれば、スタインさんをお待ち出来ますよね?」
 素敵な二人の時間を過ごす為。
 メイは張り切って、早朝から試練に向かった。

 が、しかし。

「ここ……どこですのぉ〜?」
 涙目になりながら、森を彷徨うメイの姿があった。
「このままでは、素敵な時間を過ごす時間が……いえ、ここで諦めてはいけませんわ」
 自分を奮い立たせて、立ち上がる。
「こうなったら、奥の手を使いましょう」
 メイの言う奥の手とは、女神の木の丘まで突っ切る事。
 途中、川があっても、崖があっても、敵が現れても、であった。

 スタインがその姿を確認したのは、スタインが女神の木の下に来て、数時間経った後であった。
「メイさんっ!?」
 ふらふらに疲れたメイがやっと、スタインのいる場所にたどり着いたのだ。
「大丈夫ですか?」
 スタインはそう言いながら、メイの髪や服についた木の葉を取ってあげる。
「は、はい……ちょっとお待たせしてしまいましたわ……」
「でも、無事に着てくださって、安心しました。途中で何かあったのかと心配していたんですよ」
「す、すみません……」
 ぺこりと頭を下げるメイにスタインは苦笑する。
「いいえ、気にせずに。あ、そうです。今日はメイさんの為にプレゼントを用意したんですよ。喜んでいただけると嬉しいのですが」
 そういってスタインが差し出したもの、それは綺麗な花をまとめた花束だった。
「あ、わたくしもスタインさんに、プレゼントがあるんですの」
 メイが差し出したのは、美味しそうなレモンクッキー。
「ありがとう、メイさん」
「ありがとうございます、スタインさん」
 そして、メイは恥ずかしそうに告げる。
「それと……あの……私と一緒に明日に進んでいってくれませんか?」
 それはメイからの告白。スタインはそれに少し驚いていたが。
「私も同じようなことを言おうとしていたんですよ。……好きです。この身が朽ち果てようとも、あなたの側にいます、と」

 さわさわと女神の木が祝福するかのように揺れる。
「スタインさん、あーんしてくれます?」
「喜んで」
 スタインの口に甘酸っぱいクッキーの味が広がる。
「とても美味しいですよ、メイさん」


イラスト: 御幸