『 約束の証 』

●約束の婚約指輪

 数多くの小鳥が集う場所、さえずりの泉。
 そこには、多くの恋人達が二人の時間を過ごしていた。
 そして、ここにも……。

「ロイズェ様、見てくださいまし。こんなにたくさんの小鳥さんが集まってきましたわ」
 プラムは持ってきたクッキーを細かく崩して、集まってくる小鳥達にあげていた。
「プラムちゃんのクッキー、ちょっともったいないな」
「え? ロイズェ様の分は別に渡しましたけど?」
 きょとんとした顔でロイズェを見る。
「そうだけど、でも、出来るのなら……」
(「プラムちゃんの作ったもの全て、自分のものにしたい」)
 欲張りなのかなと、心の中で呟き。
「いや、なんでもないよ。うん、プラムちゃんからはちゃんともらったからね」
 ロイズェはもらったお菓子の袋を軽く持ち上げ、微笑む。
「そうそう、俺からもプレゼントがあるんだ。受け取ってくれる?」
「え? プレゼント?」
 小鳥に餌を与え終えたプラムが振り返り、ロイズェを見る。
「お菓子のお返し♪」
 そういってロイズェが渡したのは、フリージアの花をあしらった可愛らしい硝子の指輪だった。
 ロイズェはそっとプラムの指に指輪をはめた。
「これって……」
「婚約指輪♪ プラムちゃんが俺の可愛いお嫁さんになってくれますように……の約束♪」
 そして、指輪をつけたプラムの手に軽く口付けをした。
「あ……ろ、ロイズェ……様?」
 プラムは顔を真っ赤にさせて、あたふたしている。
「俺のこと、嫌い?」
 思わず尋ねてしまった。尋ねてはいけない事だと、分かっているのに。
「そんなことないですっ! ただ……」
(「ロイズェ様のこと嫌いではありませんけど、二人っきりになるとなんだかドキドキして、ちょっと怖いのです……」)
 言葉に出来ない気持ち。
「ごめん、変なこと聞いちゃって……あ、そうだ。これ、ここで食べてもいいかな? 中身が何なのか、ちょっと気になっていて」
「あ、はい。どうぞ。あの、お口に合うかわかりませんけど……」
「大丈夫、プラムちゃんの作ったものは、どれも口に合うから」
 そよそよと心地良い風が吹く。
 また小鳥達が彼らの周りに集まってくる。
 ささやかな祝福のさえずりを奏でながら……。


イラスト: こうき くう