『 【舞】〜特別な夜に言葉に出せぬ想いを載せて〜 』

●焚き火に照らされて

 もう、小鳥のさえずりは聞こえない。
 聞こえるのは、泉のせせらぎだけ。
 その側で火が焚かれた。
「それでは、しばしの間、お楽しみくださいませ」
 ミユキの言葉に、コテツの拍手が響き渡る。
 そして、厳かにミユキは踊り始める。
 露出度の高い衣装、そして、薄いヴェール。
 ヴェールを纏い、踊る姿はまるで、光臨した美しき女神のごとく。
 始めはゆったりとしたステップで、そして、そのステップは次第にテンポを早めていく。
 残念な事は、ここに曲を奏でる演奏者がいないことだろう。
 それでもコテツは充分だった。
 片手にはミユキの用意したブランデーをくゆらせながら、ミユキの舞を眺めていた。
「いつにも増して、綺麗に見えるでござるな……眩しいほどに」
 そして、静かに苦笑する。
 本心は胸の中に。
 コテツはこの想いをしまいこんでいた。
 宴はまだ、始まったばかりなのだから……。

 ミユキはコテツが、こうして来てくれただけで嬉しかった。
 それだけで充分だった。
 たとえミユキの想いを受け取ってもらえなくても、こうして自分の舞を見てくれる。
 約束した舞を見てくれる。
 それだけで、ミユキの舞はいきいきと伸びやかに、艶やかに、見る人全てを釘付けにさせる勢いがあった。
 ミユキは自分の気持ちを舞に込めて、踊り続ける。
(「貴方の傍に、私はずっと……」)

 ミユキの舞は始まったばかり。
 それは燃える焚き火のように、熱く焦がれるように……。


イラスト: 秕 帷苓