『 「シンシアの全部、ほしい」「ええ……」 』

●約束の場所で……

 シンシアはずっと悩んでいた。
 ワイドリィの事に思いを寄せて、いくつもの時が過ぎ去った。
 けれど、付き合う寸前で止まってしまう。
 それ以上の一線を越えられないのだ。
 寂しく、自分を傷つける毎日が続く。
 これでは駄目だと、シンシアは思う。
 だからこそ、ワイドリィを誘った。
『朝露の花園で待っています』
 と……。

 同じ頃、ワイドリィも迷っていた。
 自分は人に愛される資格があるのか……と。
 そして、その直前まで迷っていた。
 ふと、思い当たる。
 二人で過ごしていた時、シンシアは時折、寂しげな表情を見せることに……。
「俺は、お前に寂しい想いをさせてしまったんだな……」
 その事に気付いたワイドリィの足は、既にシンシアのいる花園へと駆け出していった。

 シンシアは花園で待っていた。
 自分で誘っておきながら、シンシアは不安な面持ちでいた。
「ワイドリィ……」
 と、振り返る。
「シンシア」
 そこには恋焦がれる人が立っていた。
「来てくれたのね?」
 ワイドリィは静かに頷く。
 そして、シンシアを思い切り抱きしめ、唇を奪った。
「シンシアの全部、欲しい」
 ワイドリィの低く、心地良い声がシンシアの耳に届く。
「ええ、いいわよぉ♪ 言うのが、遅いんだから♪」
 シンシアの想いが、ワイドリィのその気持ちが、シンシアの心を満たしていく。
 抱きついたシンシアの瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
 シンシアも同じく抱きつき、また唇を重ねる。

 彼らの時は、まだ、始まったばかり……。


イラスト: J.2