『 蒼いラビリンス 』

●別れが繋ぐ二人の絆

「それなら、別れましょう」
 それはほんの些細なすれ違い。
 待ち合わせの食い違いから、そんな言葉が出るとは、誰も思っていなかっただろう。
 けれど、この日だけは違っていた。
「そうですね。私もそう思っていたところでした」
 それは、女神の気まぐれか。
 二人はそのまま、憤りを感じながら別れたのであった。

 夕暮れ時。
 エルフレイアは、このまま帰るつもりであった。
 エルフレイアの他にも、帰る者達の姿が見える。
 どの者も、隣には大切な人が……。
「全く、こんな所でくっつかなくても……」
 ねえと隣を振り向く。
 誰もいない。
「私も、何を考えているんでしょうか」
 苦笑を浮かべ、そのまま歩いていく。
「あ、これは……」
 エルフレイアの足が止まった。
「綺麗な花ですよ。見てください、カノンさ……」
 いない。
 いないのに、なぜ、彼女を探してしまうのだろう。
 なぜ?
「………カノンさん……」
 風に揺れる花を見つめて、エルフレイアは決心した。

 聖花祭も無事終わり。
 カノンは一人、歩いていた。
 いつの間にか星屑の丘にたどり着いていた。
「綺麗……」
 見上げる星空が、とても綺麗だった。
 まるで、恋人達を祝福するかのような瞬き。
「エルフレ………」
 思わず隣を振り向いた。そこには、いるはずの人が、いない。
 もう、彼とは別れてしまったのだ。
 『別れてしまった』。
 やっと、その事の重大さに気付いた。
「エルフレイア……様………」
 もう、会えない。
 その事がカノンの胸を締め付けさせる。そして、溢れる涙が止まらない。
「エルフレイア様っ!」
 そう、彼の名を叫んだときだった。
「カノンさんっ!!」
 そこに現れたのは、あのエルフレイア。
 エルフレイアは思わずカノンを抱きしめ、キスをした。
「エル……フレイア、様……?」
「忘れられないんです。別れたというのに、あなたの事を……」
 その言葉にまた、カノンの瞳から涙が溢れる。
「カノンも……同じ、です……」
「では、仲直りしてくれますか?」
 そんなエルフレイアの言葉に、カノンは嬉しそうに頷いた。


イラスト: ねこ