『 はい、あーんして下さい♪ 』
●甘い口づけ
この日の為に、クラリスは友達と一緒にお菓子作りの練習を積んできていた。
「キリーさんに喜んでもらえたら……」
クラリスの手には会心の出来である、チョコレートがあった。
女神の木の下で、クラリスはキリーを待つ。
喜んでもらえるか……それとも、キリーは来ないのか。
それ程経っていない時間なのに、こんなにも長く感じ、そして不安にさせる。
クラリスの胸はぎゅっと締め付けられるようだった。
「つ、疲れた……」
キリーがやってきたのは、数時間後。
やはり、ランララの試練は冒険者と言えども、苦難の道だったようだ。
「キリーさん」
クラリスの声に笑顔で応えるキリー。
「でも、苦労した甲斐はあったぜ。なんたってクラリスの手作りチョコが食えるんだからな」
「はいv」
二人はさっそく木陰に入り、クラリスのプレゼントを開封する。
「あの……キリーさん……」
照れたように頬を紅く染めながら、チョコレートを一摘み。
「はい、あーん……です……」
クラリスの細い指でキリーの口の中にチョコレートを運ぶ。
「ん、美味い♪ サンキュ、クラリス!」
その喜ぶキリーの姿だけで、クラリスは幸せだった。
と、キリーの顔がクラリスの目の前まで近づく。
「キリー……さん?」
「愛してるぜ」
淡く、チョコレートのように甘い口づけ。
(「私も、愛しています……」)
暖かい幸せに包まれながら、心の中でクラリスも同じ事を呟くのであった。
<
山犬・キリー
&
野に咲く木春菊・クラリス >
イラスト: うおぬまゆう