『 ショコラ☆記念日 』

●不安なお菓子

 その日、サリカはとっても不安であった。
「たぶん、大丈夫……」
 分量も間違っていない。
 ちゃんと途中で味見もした。
 最後のひとかけらも味見した。
 ちゃんと食べられる、甘い味がした……。
 けれど、何故、こんなにも不安なんだろう?
 そして、その答えを見つける。
「ハチャックはいつも美味しいもの、作ってくれるから……」
 サリカは思わず、ハチャックの作った料理を思い出した。
 どれも、本当に美味しい。
 だからこそ、ハチャックの作る料理を食べているときは、いつも幸せだった。
「………これで、大丈夫かな?」
 ちょっと泣きそうになりながら、自分の作ったお菓子を見つめる。
 そして、数分見つめて、決意した。

(「いつもなら、どんなに凄まじい破壊力の料理でアレさらりと出してくるのに」)
 ハチャックの目の前には、今にも逃げてしまいそうに怯える……いや、不安そうな表情を浮かべたサリカがいた。
「ハチャック……その、ハチャックはいつも、あたしが作ったもの、無理してでも食べてくれるから……もらってほしいなって思ったの。でも……ほんとにちゃんと食べられるものができてるかどうか……」
 不安な気持ちは募るばかり。
 けれど、食べて欲しいという気持ちは、誰にも負けない。
 そんなサリカの様子にハチャックは微笑む。
(「努力したんだろうな……やっぱ可愛いよな」)
 ちょっと不謹慎な事も考えながら。
 ハチャックはサリカの渡すお菓子を受け取り、すぐさま一つを口にした。
「うん、美味しい♪」
 サリカの不安げな顔は何処へやら。
 ハチャックのその嬉しそうな言葉で、サリカに笑顔が戻った。
 その瞳に僅かな涙を浮かべて……。


イラスト: すがのたすく