『 一緒に帰ろう 』

●今夜は一緒に

「とっても楽しかったね♪」
 にこにこと楽しげにミュリンはアルシェンドを振り返った。
 今はもう夜。
 空にはぽっかりと月が浮かんでいた。
 暗い夜道。
 女の子一人では、危ない道であった。
 けれど、今日は違う。
 アルシェンドがいる。
 だからこそ、夜の帰り道でも楽しげにいられるのだ。

「家まで送ろう。夜の道は何かと物騒だし、な」
 少し照れた口調で、アルシェンドは一人で帰りそうなミュリンに告げた。
「いいの? ありがとう♪」
 にこりと微笑むミュリン。
 その笑顔だけで、アルシェンドは充分であった。

 それが、ほんの数分前の出来事。
 アルシェンドはこうして、二人きりで帰る時を幸せに感じていた。
「あ、そうだ♪ おてて繋いで帰ろうよ♪」
 突然の申し出。
「えっ!?」
 アルシェンドにそのミュリンの言葉は予想外であった。
「だめ?」
 ちょこんと首をかしげるミュリン。
 その仕草が、アルシェンドの鼓動をさらに高鳴らせた。
「いや、かまわないよ」
 差し出したミュリンの手を、優しく繋ぐ。
「ありがと♪」
 るんるんと楽しげに、アルシェンドの隣を歩くミュリン。
 そのミュリンの歩調に合わせて、アルシェンドの足が、いつもよりもゆっくりになる。
 アルシェンドの顔は少し火照っていたが、とても幸せそうであった。


イラスト: 飛鳥部暁生