『 伝説の木の下で……… 』

●不器用なきもち

 女神の木を目指す。
 どんな試練が待ちうけようとも。
 そこで、大切な人が待っているのだから……。

 レドビィは気合を入れて、女神の木を目指していた。
 妙な試練に挫けそうになる時もあった。
 けれど。
「女神の木の下でイルイちゃんが待ってるぜ! 死んでも辿り着く!」
 その事だけがレドビィを支えていた。
 愛しいイルイちゃんに逢うために。

「チョコ初めて作ったから……あまり美味しくないかも」
 そう言ってイルイが手渡したのは、手作りのチョコレート。
 恥ずかしそうに顔を火照らせ、レドビィを見上げるイルイ。
 レドビィはそれを受け取り。
「あ、ああああ、ありが、とうっ!!」
 何やら、口が回っていない。
 いや、頭に何かが回っている。
 しかも顔も真っ赤である。
 イルイの手渡す手に触れ、レドビィはさらに緊張する。
「あっ、ごごごご、ごめんっ!!」
 レドビィはすぐに自分の手を引っ込めた。
「そ、そうじゃなくって……あの……」
 こういうときに限って、気の利いた言葉が出ない。
 レドビィは、そんな自分が少し情けなく思えた。
「本当に、ありがとうっ!!」
 結局出た言葉は、ただの感謝の言葉。
「どういたしまして」
 イルイは微笑む。
 そして、レドビィも。

 ゆっくりと、二人の時は動いていく。
 とても不器用な二人の時間が……。


イラスト: 芳田ひふみ