『 待たせたな・・・あ!!』『危ない!・・・おっと。 』

●この想いを抱きしめて

 この日、ディオナは大失敗をしてしまった。
 明け方まで料理と格闘を行っていた。
 それは会心の出来でもあった……が、しかし。
 料理に勝利したが、睡魔に負けてしまった。

 つまりは、寝坊してしまったのだ。

 目覚めたディオナは急いで身支度をし、リュシュカのいる場所まで駆けてゆく。
「リュシュカ、今行くぞっ!!」
 もうすぐ、女神の木が見える……。

 リュシュカは待ち合わせの女神の木の下で、ディオナが来るのを待っていた。
「ディオナ殿……」
 リュシュカはディオナを待たせないよう、素早く試練を乗り越え、ここまでやってきていた。
 これも愛ゆえに、である。
 と、なにやら走ってくる人影を見つけた。
「ディオ……」
 駆けてくる彼女の名前を言う前に。
「わあっ!!」
 彼女がリュシュカの胸の中に飛び込んできた。
 どうやら、彼女は急いでくるあまり、途中にあった木の根に躓き、転んでしまったらしい。
 思わずリュシュカの口元がほころぶ。
「す、すまない……待たせて、しまったな……」
「いいや、それほど待っていないから。それよりも、怪我はないか?」
 優しいリュシュカの声が、ディオナの心を溶かしていく。
「リュシュカのお陰で、無傷だ」
 にこりと微笑む。
「あっと……リュシュカ、これを……」
 転んでもこれだけは離さなかったお菓子。
 これを届ける為に大変な思いをした。
 リュシュカはその贈り物を受け取り、そのままディオナを抱きしめる。
「ありがとう」
 そっとディオナの耳元で囁いて……。


イラスト: 芳田ひふみ