『 僕はあなたの月になりたい 〜恋心が愛に変わる時〜 』

●儚い抱擁

 月が、女神の木と、恋人達を照らす。
 淡い光が恋人達を包んでいった。

「初めて会った時から……あなたの事が好きでした」
 アカシックはその日、自分の想いをベルフラウに告げた。
 その告白にベルフラウはそっとまぶたを閉じ、何かを考えている様子であった。
 そして、もう一度、その緑の瞳が開かれる。
「アカシックさんの気持ちは、とても嬉しいです……」
 でも……とベルフラウは切ない表情で言葉を続ける。
「今の私には恋愛の余裕がありません。どうか……こんな私を許して下さい……」
 受け取れない想い。心。
 彼女はそれを痛感していた。
 そして、アカシックもそんな結果になる事を感じていた。
 淡い期待が、露と消える……。
「たとえ、今すぐにこの気持ちを受け止めて頂けなくても……。僕はあの月のように、あなたを包み、癒し、闇夜を照らす光となって……あなたを支える事を誓います」
「アカシックさん……」
 アカシックはそう言って、ベルフラウをそっと抱きしめた。
 拒否されるかと思った。
 けれど、ベルフラウは受け入れてくれた。
 ほんの少しの抱擁。
 そして、胸の中で感謝して……。
「そろそろ戻りましょうか。風邪を引いてしまいますし」
 そう告げるアカシックの言葉にベルフラウは、静かに頷く。

 月明かりが二人を照らす。
 その想いは伝わらなくても、いつか……。


イラスト: 宮城ちづる