『 この笑顔の為に… 』

●少し早いハッピーバースディ

 空には満天の星が広がる。
 キサラは寒さをかみ締めながら、クーガーが来るのを待っていた。
「何かあったのでしょうか?」
 それとも……。
 キサラの胸に不安ばかりがのしかかる。

「すまない、遅くなってしまった……」
 やっとクーガーが現れた。
 既にキサラの唇はやや青ざめている。
 けれど健気に。
「よかった……心配していたんですよ。さあ、これを……」
 そう言ってキサラは、持ってきたお菓子を渡す。
「キサラ……ありがとう」
 クーガーはお菓子を受け取り、そして、自分のコートをキサラにかけてあげた。
 クーガーのぬくもりが、キサラを包み込む。
 先ほどまでの寂しかった夜が、嘘のように暖かく感じた。
「ああ、キサラ。少し早いが、これを渡しておこう。……ハッピーバースディ、キサラ」
 そして、クーガーが手渡したもの。
「クーガー……」
 二日後に控えた誕生日。
 それをクーガーは覚えてくれた。
 それだけで、キサラは満たされていく……。
「ありがとう、クーガー」

 満天の星空の下、二人は寄り添っている。
 肌寒い場所。
 けれど二人にとって暖かい場所であった……。


イラスト: 聖マサル