『 【ランララ聖花祭】さえずりの泉の畔、表裏のある場所 』

●長閑なひととき

 ここは静かなさえずりの泉。
 時折、聞こえる小鳥の歌が、まるで子守唄のように……。

「こんなにまったりしている方がたくさんいますのね?」
 サユーユの側で、まったりと寝ている一人の頬を弄んでいる。
 まったり空気の中、暖かいぬくもりが、サユーユの心を一層、落ち着かせる。
「何だか、わたくしまで寝てしまいそうですわ」
 そう苦笑を浮かべていると……。
「サユーユ」
 声が聞こえた。
「アオイさん……」
「待たせてしまったな」
「いいえ。気にするほどではありませんわ」
 アオイはそっと、サユーユの隣に座り、辺りを見渡した。
 美しい泉、美しい鳥のさえずり。
 そして、まったりと転がっている人々……?
「……これは、まあ……見なかったことにしておこうか」
 思わずアオイは苦笑する。
「そうですわね……」
 サユーユも頷いた。
 ふと、サユーユは思い出したように側においていたプレゼントを取り出した。
 サユーユの想いを込めた、梨枝の御守りの入った梨ラスク。
 緊張しているのか、少し遠慮がちでアオイに手渡した。
「宜しければこの護梨を……受け取って下さりませんか?」
「サユーユ……ありがとう……」
 アオイの胸は嬉しくて少し照れていたが、表情に出さないように受け取る。
「お口に合うとよろしいのですが……」
「それではさっそく……いただきます」

 サユーユは泉に両足を浸しながら、アオイと他愛ない話をしている。
 アオイはサユーユから貰った護梨を、満足げに食べている。
 二人だけの時間。
 二人だけの場所。
 その傍らでは、相変わらずまったりとした空気が流れていたのである……。


イラスト: 彩月翠