『 むげファン無謀編 【そのまま穴でも掘っていろ!】 』

●場違いな二人?

「あなたのことが、好きですっ……」
「ああ、俺もだよ、セニョリータ!」
 お菓子を受け取り、そして、目の前の彼女を抱きしめる。
 彼女は感極まって、大粒の涙を零した。

 ティエンとソラの周りでは、そんなカップル達が熱い告白をしていた。
「気晴らしになるかと思ったんだけど……ソラ、後悔してる?」
 ぽんとソラの肩を叩く、ティエン。
「黙れ……うっかり殺してしまいそうだ」
 物騒な事を口走っているのはソラ。
 かなりご機嫌ナナメのご様子。
 肩を叩いたティエンの手を乱暴に振り払っていた。
 そんな様子にティエンはくすりと笑う。
「僕はリヒトンさんと待ち合わせているけど、ソラはこれからどうする?」
「興味無いな……俺はさっさと帰るぞ」
 そっけない答え。
「はははははっ!! ソラ、まだまだ人生これからだって!!」
 ティエンはそう行って、またソラの肩を叩いた。
 豪快に笑いながら。
「そうだな……まだ生きる事が出来るのなら、その先に何かあるかもしれないな……」
 今度はそのティエンの手を振り払う事はなかった。
 ただ、真面目な顔をして、そう呟いただけ。
「そっか。じゃあ、俺行くね? リヒトンさん待たせると悪いし♪」
「……………お前はっ」
 ソラが何かを言う前に、ティエンはそそくさとその場を去っていった。
「………………」
 言い知れぬ怒りだけが、ソラに残される。
 独り身の自分。
 周りには、多くの恋人達が告白をしたり、されたり……。
「さあ、いくか」
 場違いな自分は早めに退散……。
 そう言うかのように、ソラもまた、その場を去ったのであった。

「くしゅん」
 ティエンがひとつ、くしゃみした。
「風邪でも引いたかな?」
 ティエンは、まだ知らない。
 それが、ソラのささやかな復讐だとは。


イラスト: 彩月翠