『 なぜ‥こんなに優しいのですか‥? なぜ‥‥ 』

●優しさの理由

 女神ランララの木の下で、メイプルは悩んでいた。
 主人であるアゼルの傍に、ずっといたい。
 このメイプルの願いは、いつしか不安に変わっていた。
 今の主従の関係を超えてしまいそうで……。
 そして、アゼルはメイプルに優しかった。
「その優しさは、弱者への慈しみ?」
 言葉にするだけで、こんなにも卑しい気持ちになるものか……。
「それならば、もう……」
 メイプルの心が、人知れず悲鳴をあげていた。

 ふと、俯くメイプルの後ろから、人影が現れる。
「アゼル……様……」
 人影は、あのアゼル。
 メイプルの想いが、募る。
「ここにいたのか。探したのだぞ?」
 胸が締め付けられるほど、優しい声。
「どうして……そんなに……優しいのですか……? なぜ……」
 メイプルの瞳から涙が溢れる。
 こんな想いをするのなら、いっそ、消えてしまいたい。
 そんなメイプルにアゼルは微笑む。
「私が月なら君は星。儚げなのに強い、ただ1つの輝ける星だ」
 アゼルは言葉を続ける。
「闇の中で導けるのは……メイプル、君なんだ。だから、どうか消えないで欲しい。私が私でいる間、限りある永遠をメイプルと共に歩む為に……。私の我侭な夢だが……付き合って欲しい」
 そして、両手をメイプルに伸ばす。
「ああ……アゼル様………」
 その手に伸ばす事。
 それはメイプルの心を迷わせる事。
 けれど、メイプルは抗う事は出来なかった。
 それほどまでに、その想いは強い。
 アゼルに抱きしめられ、メイプルはアゼルのぬくもりを感じる。
 そっと、メイプルの瞳から流れる涙を、アゼルはその白く細い指でそっと拭う。

 二人は長い間、その場所にいた。
 そして、メイプルは思う。
 主人の、アゼルの我侭な夢を共に見ていこうと……。


イラスト: みなみすばる