『 赤い糸 』
●熱き想いと口づけを
静かなさえずりの泉。
人気のない場所で、二人は走っていた。
木々を縫うように駆けていく。
キィィインッ!!
逃げるフォルムアイ。
それを追うリューディム。
迎撃するフォルムアイのチャクラムが、細い木の枝と、リューディムを切り裂く。
ぱっと、花びらが舞うように、深紅の血が散った。
リューディムはそれでも微笑む。
むしろ、傷つけられて、嬉しいというかのように。
追われるフォルムアイも幸せそうに攻撃を行う。
二人は傷だらけになりながらも、人の居ない森を走り抜けていた。
「あっ……」
そして、フォルムアイが耐えかねたように倒れこむ。
「もう終わりかしら?」
倒れたフォルムアイを、そっと抱きかかえるリューディム。
無言でリューディムを見るフォルムアイ。その顔には笑みが浮かんでいた。
「あなたは終わりにしたいのですか?」
リューディムは微笑み、唇を重ねる。
ズキッ!
フォルムアイはリューディムの舌を噛んだ。
リューディムの血の味が、二人の口の中で広がる。
そして、フォルムアイは優雅に微笑んだ。
「やっぱり、リューディムの血が一番ですね。色も味も全て……」
「そう? そんなに誘うのなら、本当に殺してしまうわよ?」
二人は微笑む。
その笑みは、冷ややかなものではなく、嬉しい時の幸せな笑み。
「でも、今日はこれくらいにしておきましょう」
「そうね。それに……」
リューディムがフォルムアイを抱きしめて、囁く。
「あなたを殺したいと思うのに、殺されたいという気持ちもあるなんて……そんなに私、酔っているのかしら?」
フォルムアイは笑う。
「さあ、どうでしょう?」
もう、戦いの音は聞こえない。
静かに雫が零れ落ちる音だけが、聞こえる。
それも次第に消えてゆく。
(「血塗れで添い寝して、永遠に抱いていたい、なんて……」)
言葉にしない想いが、リューディムの心に刻まれていくのであった。
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イラスト: 機喬 鎖ノム