『 甘い、な… 』

●寒い夜は二人で

 星屑の丘。
 夜空が美しい場所だが、少し肌寒いのが難点な場所。
 そこで、アーサスとネフェルは二人きりで夜空を見上げていた。
「見てくれ、アーサス……こんなにも、星が美しいとはな……」
「そうだな。俺もこんなに綺麗な夜空は始めてみるかもな」
 一緒に空を見上げる。
 吸い込まれそうになる夜空。
 怖い気もするし、そうでないとも思う。
 ふと、アーサスは隣にいるネフェルを見た。
 ネフェルと目が合う。
「寒くないか?」
 アーサスに言われて気付く。少し肌寒い事を。
「そうだな、少しだけ……」
 ふわりと何かがネフェルの肩に巻かれた。
 ショールだった。
 夜の外気に晒されて冷たいはずのショールは、アーサスがずっと持っていた所為か、ほんのり暖かい。
 そしてアーサスは、恥ずかしげもなくネフェルを抱きしめ、髪に口付けした。
「………ぁ」
 ネフェルの頬が赤く染まる。
 鼓動が早くなる。
 その鼓動に気付かれないようにして、用意してきたお菓子を取り出した。
「きょ、今日はこれを持ってきた。良かったら貰ってくれないか?」
 アーサスの為に愛を込めたお菓子は、とても美味しそうであった。
「ネフェルが作ったのか?」
 こくりと頷くネフェル。
「じゃあ……一緒に食べよう。一人で食べるよりも二人で食べた方が美味いからな」
 微笑まれてまた、ネフェルの顔がほんのり赤くなる。
 そして、アーサスはネフェルのお菓子を一つ、口に入れる。
「甘い、な……」
 でも、と続ける。
「美味しい」
 ネフェルの耳元で、そっと囁いた。
「………よ、よかった」
 ネフェルは照れたように、恥ずかしそうに俯きながら、胸をなで下ろした。

 二人は寄り添い、空を見上げる。
 寒い夜。
 けれど二人には、その寒さを感じる事はなかった。


イラスト: 気狂いピエロ