『 ―茜空― 』

●綺麗な町並み 悲しい過去

 星屑の丘から見える、美しい町並み。
 フォルテとマナは、その町並みを見ながら、夕日が沈むのを眺めていた。
「綺麗な町並み……綺麗だとは聞いていたけど、こんなにもだったなんて、思っていなかったよ」
 マナはそう言って、隣のフォルテを見た。
「ああ、そうだな。茜色に染まる町並み……か。まるであのときを思わせる色、だな……」
 あのとき。
 マナの知らない言葉、知らない話。
 気になるが、それは聞いてはいけないもののように思えた。
 だから、聞かずにそのまま、町並みを見ていた。
「マナ、聞いてほしい」
 フォルテはマナにそう切り出す。
「俺は、この手で親友を殺した」
 それは、マナにとって衝撃的な内容であった。
 フォルテの過去。
 それは血塗られた記憶と思い出。
 そのことをフォルテの口から聞かされる。
「………うん」
 小さく頷きながら、マナはそれを黙って聞いていた。
「俺は咎人。その罪から俺は、永遠に誰も愛せない」
 それは、マナの気持ちを汲み取る事が出来ない事を示していた。
 希望が絶望へと変わり始める。
「……そう、なんだ……」
 綺麗だった町並みが、とたんに曇り始めた。
「だが、忘れないでほしい。お前は俺のパートナー。その言葉に違いはない。今までも、そしてこれからも……」
 マナの心が、満たされていく。
(「ボクのこと、嫌いじゃなかった」)
 安心した。だが、まだ油断は出来ないだろう。
 それでも構わない。
(「ボクの願いが叶わないという事ではないから」)

(「気付かれなかっただろうか?」)
 フォルテは自分の気持ちを、微笑で押し殺していた。
 マナへの想いを。
 これでよかったのだとフォルテは思う。
 そうすれば、マナにもっと悲しい思いをさせずに済む。
 自分の罪まで背負わせる事はないのだ。
 だから、今を少しだけ、このままで……。

 二人は夕焼けの町並みを眺めていた。
 いつまでも、いつまでも……。


イラスト: 宮城ちづる