バカ…ですよ

●冷たい手、暖かい手

 その日、アルムは重大なミスを犯していた。
「………寒い」
 マシロに待ち合わせ時間を伝え忘れていたのだ。
 案の定、マシロはまだ来ていない。
 待ち合わせ時間を伝え忘れたことを思い出したときは、一瞬、立ち尽くしてしまったが、アルムは少しも心配してしなかった。
(「きっと、彼女は来てくれるから」)
 マシロはきっと来てくれると信じていたのだ。
(「ただ、余計な手間を取らせたかも………」)
 ちょっと反省。後でその分、謝ろうと考え、アルムはずっと待つことにした。

 はっはっはっ。
 マシロは走った。
「もう……」
 実はアルムは時間だけでなく、待ち合わせ場所も伝え忘れていた。
「待ち合わせ場所がないと、見つからないじゃないですか……」
 吐く息が、白く色づく。
 アルムのためにも、早く早くたどり着かなくては。
 マシロは走るスピードを上げた。

「どうして、待っているんですか!!」
 やっとアルムを見つけたマシロ。
 思わず怒りに任せて叫んでしまった。
「ごめん」
 マシロは謝るアルムの手を握った。
 すっかり冷たくなってしまっている。
 ずっと、この場所でマシロのことを待っていたに違いない。

 アルムはマシロが来てくれて嬉しかった。
 その気持ちに応えたい。
 冷たい手になってしまったけど、そっとマシロの手を握り。
 微笑んだ。

 二人は寄り添い、体を暖め合った。
 もう少しすれば、冷たい手も暖かくなるだろう。
「もう、大好きですよ………」
「僕も……」
 二人の時間は、まだ、始まったばかり………。


イラスト: Sue