女神の木の下で

●女神の木の下で……

(「来てくれるだろうか?」)
 女神ランララの木の下で、リーヴァはまた、ため息をついた。
 これで何度目だろう?
 辺りの人々は、待ち合わせた相手と一緒に何処かへと、また一人また一人と去っていく。
(「カノンさんは、来てくれるだろうか?」)
 リーヴァが不安になるには、訳があった。
 ランララ聖花祭が始まる、数日前。
 リーヴァとカノンは、あるトラブルに巻き込まれた。
 それはほんの些細なことかもしれない。
 けれど、二人の仲にほんの僅かな溝ができたことは否めない。
「はあ………」
 リーヴァはまた、ため息をついた。

「はぁ、はぁ、はぁ」
 息を弾ませ、丘を駆け上る者がいる。
 カノンだ。
 一つにまとめた長い髪が、ビュンビュンとリズミカルに動く。
(「まだ、いるかな?」)
 カノンもまた、不安でいっぱいであった。
 けれど、カノンには、リーヴァに伝えたい言葉があった。
 不安になりそうな気持ちを振りほどくかのように、カノンは首を横に振る。
「でも、いかなくっちゃ!」
 だからこそ、全速力で。

「………カノンさん、来るかな?」
 不安だけが募っていく。
 リーヴァは俯き、それでもカノンが来るのを待っていた。
「リーヴァさーんっ!!」
 声が聞こえた。
 リーヴァは声のする方へと顔を上げた。
 ばっ!!
 嬉しそうな微笑み。
「カノンさんっ!」
 やっと会えた喜び。
 リーヴァは飛び込んできたカノンを確かに受け止め、そして微笑んでいた。
 カノンはリーヴァの胸に顔を埋めて。
「ありがとう……リーヴァさん」
 小さな囁き。
 リーヴァに届いたかは分からない。
 だが。
 リーヴァはその囁きに応えるかのように、カノンを強く抱きしめたのであった。


イラスト: うおぬまゆう