月明かりの下で〜甘いご褒美

●ガトーショコラに愛を込めて

 ラットは生まれて初めて、ガトーショコラを作った。
 もちろん、知人にガトーショコラの作り方を教わってである。
 完成したガトーショコラを見ながら、ラットは満足げな笑みを浮かべた。
「上手くできたみたいだね」
 果たして、このガトーショコラを喜んでくれるだろうか?
 彼は。

 星が煌く夜。
 空には大きな月が浮かんでいた。
「たまには、こういう祭りでのんびり過ごすのも良いものだな」
 レイードはそう、にこやかに微笑む。
「うん、そうだね。試練がちょっと大変だったけど」
 そのラットの言葉に、レイードは笑う。
「そうかもしれない」
 思わず二人は顔を見合わせ笑い始めた。
「でも、大変だったのは事実だよ。何度、もうダメかと思ったか」
 ラットはお菓子を死守して、試練を乗り越えてきていた。
「お疲れ様。ラット」
「いーえいーえ。あ、それよりも、冷めないうちにこれ食べてみてよ! 頑張ったんだからね」
 そう言って取り出したのは、あのガトーショコラ。
「ショコラ、作ってくれたのか?」
「まあね」
 普段ならば、このようなものを作らない。
 どうしても作りたかった理由があったのだ。
 今日は、特別な日だから……。

「ありがとうな」
 レイードはそう言って、さっそくガトーショコラを取ろうとした。
「ちょ、ちょっと待って」
 それと止めるラット。
 そして、ラットは、ひと欠片のガトーショコラをくわえる。
「ラット?」
 キス。
 キスと同時に口の中には甘いガトーショコラの味が広がった。
 それは、とろけるようにゆっくりと。
「お、お礼、というかご褒美、だから……」
 照れたように頬を赤く染め、ラットはそう告げた。
「何か……照れるな、こういうの」
 レイードは軽く笑い、照れながらも続ける。
「ラット」
「な、何?」
「美味しかった」
 レイードはそう言って、ラットを優しく、けれど短い抱擁をした。
「だから、さ」
 思い出したようにレイードが言う。
「もっと食べても良い?」
「え? えっと、その……」
 突然のレイードの言葉に、ラットは言葉を詰まらせた。
「ショコラ、一口じゃ足りないから」
「あ、こ、これね。いいよ。全部食べても」
「全部はちょっと無理だから、一緒に食べないか?」
「う、うん……」

 二人っきりの夜。
 二人は寄り添いながら、甘いガトーショコラを食べるのであった。


イラスト: うおぬまゆう