― 月彩甘夜 ―

●秘密のお茶会

 二人のいる場所は誰も使っていない廃屋。
 とはいっても、事前にエイルが綺麗に整え、廃屋のようには見えない。
 どちらかというと、喫茶店のようであった。
 その一室にテーブルと椅子が置かれている。
 そう、そこが今日のお茶会の会場。
 白いテーブルクロスを掛けて、部屋の壁には用意したリースを飾っていた。
「へえ、綺麗になるもんだな」
 フォルテは、部屋を見渡し、感嘆の声をあげる。
 以前、フォルテは一度、この部屋に来ていた。
 飾りつけも、掃除もされていない寂しい部屋を……。
「ちょっと頑張ってみました」
「お疲れ様」
「では、どうぞ。座ってお待ちくださいね」
 フォルテを席に座らせて、エイルはそそくさとお茶の準備を始める。
 甘さ抑えめのチョコレートケーキ。
 香り立つお茶。
 それらをトレイに乗せて、エイルは戻ってきた。
「お待たせしました。どうぞ、食べてみてくださいな」
 優雅な手つきで、それらをフォルテの前に並べる。
「では、さっそく……いただきます」
 フォルテの持つフォークが、さくっとケーキを崩していく。
 そして、小さなケーキの欠片が、フォルテの口の中に運ばれる。
「うん……とっても美味しいよ」
 じーーーーーーーー。
「エイル?」
「あ、ご、ごめんなさい。な、何だかちょっと、美味しそうに食べるんですもの……」
 このケーキ。実は一個しか用意していなかったりする。
「……んー……それじゃ、ほれ、あーんしてみて?」
 欲しいのだと理解したフォルテがエイルにおすそわけ。
「あーん」
 フォルテはそっと、こぼさない様に注意しながら、ケーキをエイルの口の中に運んであげた。
「……んー、甘さ控えめにしたはずなのに………甘い、ですね?」
 気のせいだろうか?
 それとも………?
「もう一口食べる?」
「えっと……それじゃあ、もう一口……」
 照れくさそうに頷くエイル。

 二人以外は誰もいない、静かな場所。
 二人だけのお茶会は、始まったばかり……。


イラスト: カノ