朝露の子守唄

●心地よい花園へ

 クレハは、ゆっくりと花園にたどり着いた。
「コロクルさーん、コロクルさーんっ!」
 花園で会おうと約束した2人。
 だが、どうやらコロクルは遅れているようだ。
「コロクルさん、まだ来ていないみたい、ですね………」
 そして、クレハは視線を手元に移した。
 そこには、美味しそうなお饅頭があった。
「本当は、洋菓子にしたかったのですが……」
 思わず苦笑を浮かべる。
 何度も何度も挑戦した。
 だが、全て失敗してしまったのだ。
 夜遅く、ギリギリまでクレハは頑張ったが、洋菓子の完成にはいたらなかった。
 結局、手馴れたお饅頭を作って、クレハはここにやってきたのだ。
 チチチチチ………。
 遠くで小鳥のさえずりが聞こえる。
 花の上を小さな蝶が舞っている。
「コロクルさんが、来るまで……待たな、きゃ………」
 しかし、深夜までお菓子作りをしていた為に、クレハはあっという間に睡魔に襲われ………。

「はあ、はあ、やっと着いたでっ!!」
 コロクルが息を弾ませ、花園にやってきた。
 いち早く、彼女に会う為。
 クレハに会う為に大急ぎでやってきたのだ。
 けれど、どうやらクレハの方が早かったらしい。
 ちょこんと座って待っているクレハの後姿を見て、コロクルはまた走り出した。
「待たせてしもうたな」
 どのくらい待ったのか、そう訊ねようと前に回ったら……。
「!?」
 クレハは、うとうとと寝ていた。
 ちょこんと座りながら、手にコロクルに渡す為のお饅頭を持ちながら。
「あ………えっと………」
 クレハを起こそうかと思ったが、なかなかに気持ち良さそうに寝ている。
 ただ、お饅頭だけは危ないので、コロクルが避難させておいた。
 と、クレハの体がぐらりと倒れる。
「わ、わわっ!!」
 慌ててコロクルが受け止め。
 気がつけば、コロクルの膝枕でクレハは、すやすやとまだ眠っていた。
 いつも通りの光景。
 いつも通りの2人。
「まあ、ええか」
 思わずコロクルの顔に苦笑が浮かぶ。
 幸せの形は、人それぞれ。
 そして、コロクル達の幸せも、きっとこんな感じなのだろう。
「あー……幸せやなぁ、僕」
 幸せをかみ締めながらコロクルも、うとうとしながら、クレハが起きるのを待っているのであった。


イラスト: 羽月ことり