捨遊 ―Stars of tears―

●気づかれてはダメよ?

「はぁ…………」
 クラウディアは、暗い影を背負いながら、深く深く、そして切ないため息をついた。
「どうして、あんなことしちゃったんだろう?」
 彼の横には、何故か女性用のドレスがかけてあった。

 時をさかのぼること、ランララ聖花祭当日。
 様々なカップル達が楽しげに出かけはじめていた。
 緊張しながら、楽しむように、落ち着かない様子で。
 それぞれ思い思いの気持ちを胸に、女神ランララの木へと出発していく。
 それは、誰が言ったのかなど、記憶に無い。
 ただ、確かなことは、その日は妙に何かをしたかった。
 いつもと違う、何かを………。

 この異常な事態に気づかれてなるものか。
 男同士でこんなとこにいるなんて、何の罰ゲームデスカ、クロウ殿。
 カクカクしながら、シヤクは隣にいるクラウディアを見る。
「何か?」
「あ、あの……その………あ、あなたに見とれてしまって」
「まあ、嬉しい」
 にっこり微笑み、シヤクの腕に寄り添う。
 命に関わる異常事態ではない。
 だが………二人にとって、今日のゲームは、かなり異常事態であった。
 しかも、今はランララ聖花祭。
 知り合いだっているかもしれないのだ。
 その知り合いに出会って、男同士で来ていることがバレたら………。
 そう考えるだけで、シヤクの背筋は、ぞっと冷たくなるのだ。

 さて、今回のゲームのルールを説明しよう。
 彼らはカップルとして来ている。
 男同士であるが、それがバレてしまえばゲームオーバー。
 もちろん、途中で弱音を口にした方が負けである。
 しかも、周りにいる恋人以上に親密に演技しなくてはならない。
 以上、これが今回のルールである。

 そうこうしているうちに二人は朝露の花園に来た。
 時間はもう夜。
 ここまで来れたことに二人は内心、安堵していた。
 だが、最後までやらなくては、結果が出るまではゲームは終わらない。
「楽しいです?」
 満面の笑みを浮かべながら、花園で座るクラウディア。
「楽しいですよ?」
 シヤクもそう、微笑み返す。
「ああ、そうです。せっかく花園に来たのだから、花をつけてあげますよ」
「まあ……」
 シヤクが屈んで、そっとクラウディアの頭に花をつけてやる。
「ありがとう……」
 そっと俯き、頬を染めるクラウディア。
「喜んでもらえて、俺も嬉しいです」
 また微笑み合う。

 結局、勝負はつかなかった。
 二人とも、恋人同士を貫いたのだ。
 だが、その後、二人はしばらくの間、仲間の前には出なかったようだ。
 ランララ聖花祭。
 この日、恋人達だけでなく、他の者達も狂わせたようであった。


イラスト: 夏目京治