御大とわし〜その18・ランララ篇〜

●ある者の手記より〜

「ん? これは何だ?」
 偶然、道を通りかかった青年が、薄汚れた手帳を拾った。
 誰のだろう?
 何が書かれているんだろう?
 その手帳には誰の秘密が書かれているのだろう?
 手帳には、不思議な力があるのかもしれない。
 そう、開けてはいけないページを捲らせる『何か』が………。

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 ちゃり、ちゃり、ちゃり。
 あれは何の音だろう?
 少しずつ少しずつ近づいているように思う……。
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 最近、やっと気づいた。
 あのちゃりちゃりという音は鎖の擦れる音だ。
 だが、辺りを見渡しても、鎖が擦れるものはない。
 あれは、本当に鎖なんだろうか?
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 鎖の音が聞こえて、数日が経った。
 ついに恐れていたことが起きてしまった。
 気が付いたら、私は穴を掘っていたのだ。
 誰に言われたわけでもない……多分。
 そして、人一人、入る分の穴を掘り終えたとき、目の前に人影が現れた。
 黒いドレスを身に纏い、長い金の髪を揺らしながら。
 エルフの女性だったように思う。
 いや、正確には誰なのかわからない。
 男のように思えるし、別の何かだったのかもしれない。
 どうも、記憶が……はっきりしないのだ。
 その後、思いがけない衝撃が襲った。
 最初は貫手。次に横薙ぎの一撃。
 そして、最後に……あの鎖の音が………。
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「うわあっ!!」
 手帳を拾った青年は、驚き、手にしていた手帳を捨てた。
 近くで、鎖の音が聞こえた気がしたからだ。
 その者は、急いで賑やかな町へと走り去っていった。
「う、う…………」
 と、転がっている手帳の側で白い何がが動いた。
 チアキだ。
 人が入る穴に、涙を流しながら身を埋めている。
 意識を失った状態で。

「あら? 何かあったんでしょうか?」
 エルフの霊査士・ユリシアは走り去る青年を眺めている。
「……あそこにいるのは……どうかしたんですか?」
 ユリシアは倒れているチアキに気づき、声をかけるのであった。

 何があったのかはわからない。
 ただ、彼に何があったのかを知る手がかりは、彼の側に落ちている薄汚れた手帳に書かれた一節に秘められているのかもしれない。
 恐ろしい『何か』が書かれたあの、手帳に……。


イラスト: 花田マイリー