〜alkaloid poisoning〜

●逆十字の理由

 いつの日のことだろう。
 楽しかった頃もあった。
 ずっと側にいたいとも思った。

 怖い……。
 いつからこんな感情を抱いてしまったのだろう。

 もう心を開けない。
 傷つけられるのが、怖い。

 変わってしまった気持ちは、もう戻らない。
 あの時と同じような、気持ちは……もう。

 丘を登っていく。
 二人で約束した待ち合わせ場所。
 これから楽しいひと時を楽しむのだと、アコナイトは弾んだ気持ちで、向かっていた。
 その腕にはお菓子の入ったバスケットがあった。
 そして、アコナイトはルビーナの姿を見つけた。
 思わず、アコナイトの顔に笑みが浮かぶ。
「ルビーナさん、お待たせしてしまったようですね」
 にこにこと彼女に近づく。
 ルビーナは声をかけられ、顔を上げた。

 空気が、違った。
 重く、息苦しい時間。
 アコナイトの笑みはいつの間にか消えていた。
「……もう、終わりにしないかぇ?」
 ルビーナの言葉は、別れの言葉だった。
 アコナイトも薄々感じていた。
 けれど、口にしなかったのは、やはりルビーナと共にいたかったから。
 驚きよりも先に来たのは、自分の奥底の気持ちに気づいたその時点で終わりだという事。
 これ以上、傷つける必要もないと感じた事だけ。
「ええ、いいですよ」
 すぐにアコナイトの返事が来る。
 上手く、笑えただろうか?
 アコナイトの心に不安がよぎった。
 と、ルビーナが僅かに微笑んだ。
「これからは……良い相棒として」
 ルビーナがそう言って手渡したのは、逆十字の首飾り。
 アコナイトは、確かにそれを受け取った。
「はい、これからは相棒で」

 恋人でもない。
 友達でもない。
 けれど、この好きな想いだけは変わらなかった。
 それが互いに相手を傷つける事になろうとも。
 こんなにも、心が傷ついていても、止められなかった。
 幸運だったのは、新たな関係を築けた事。
 『相棒』として。
 これが二人にとって最良の選択であったかは、まだ分からない。
 だが、泣く事がなかったのは、新たな関係に望みを託したかったからかもしれない。
 今は、この喜びを感じていよう。
 ほろ苦いお菓子と共に、新たな関係を祝して。

 サヨナラ……愛しい人………。


イラスト: 吉野るん