密かに想う…

●淡い夢のように

 静かな夜。
 ヒヅミは、女神ランララの木の下に来ていた。
 大きな木を見上げながら、大切な人を想う。
 ギー。
 それが、ヒヅミの大切な人の名前。
 名前を呟くだけで、胸の鼓動が早くなるのは、気のせいではないだろう。
 この胸の想いを、彼に伝えたい。

 でも。

「私ではまだ……告白なんて無理です」
 ヒヅミは俯き、木に願う。
 せめて、彼が幸せでありますようにと………。
「そこにいるのは、ヒヅミではないか」
「え?」
 突然、後ろから声をかけられた。
 聞き覚えのある声。
 なじみのある声。
 忘れられない、大切な人の声……。
「あ、ギーさま……どうして此処に?」
「ちょっと眠れなくてな。ここまで、夜風に当たっていたのだ。ヒヅミは?」
「わ、私は……その……ギーさまと、同じです」
 頬の紅さを見られただろうか?
 いや、わからないはず。
 夜の闇が隠してくれたはず。
「そうか。ここで会ったのも何かの縁。今宵はここで夜空を楽しむというのは、いかがかな?」
「あ、は、はいっ! よ、喜んで!」
 そんなヒヅミの様子にギーは思わず笑みを浮かべる。
 二人は寄り添い、夜空を見上げた。
 満天の星が、二人を祝福するかのように瞬いている。
「できることなら……ずっと傍にいたいです……」
 ヒヅミの小さな呟き。願い。
「寒くはないか?」
 どうやら、ヒヅキの言葉は聞こえていなかったらしい。
 けれどヒヅキにとって嬉しい言葉がかけられる。
「いいえ、大丈夫、です」
「無理をするな、震えているぞ」
 そう言って、ギーはヒヅキを引き寄せる。
「こうすれば、暖かくなるだろう」
「で、でも……」
「何か不都合でも?」
 ギーに訊ねられて、不都合を考える。
 ………何も無い。むしろ好都合ともいえる展開。
 ヒヅキは首を横に振った。
「不都合なんて、ありません……」
 俯くように、ヒヅキはそっと、ギーの体に寄り添った。
 このぬくもりを忘れないよう、しっかりとかみ締めながら…………。

 ちゅんちゅん。
 小鳥がさえずっている。
「あ………」
 目が、覚めた。
「夢、でしたか……。眠ってしまったようですね………」
 そう、あれはヒヅミの見た夢。
 胸が、締め付けられるように苦しいのは、それほどギーを想っているから?
「でも、幸せです」
 ふふっと笑みを浮かべ、女神の木の下を後にする。
「女神様、素敵な夢をありがとう」


イラスト: 金子鉄一