花舞う夜明け―朝露の夢―
●シークレット・ガーデン
本当は来るつもりはなかった。
一度だけの、儚い夢のはず。
それを見せるだけであった。
どうしてだろう?
どうして、ここにいるのだろう?
答えが、見つからない。
ただ一つ言えることは……。
彼の悲しむ顔を見たくなかったから、かもしれない。
百合の花咲く、朝露の花園。
そこでは、微かに歌が聞こえた。
どこの国の歌かは、わからない。
ふぉるては、満開の百合に喜び、歌を口ずさんでいた。
そして、ステップ。
二人の距離は僅かに、少しずつ開いていった。
まるで、今日という日を喜ぶ妖精のように、ふぉるてはくるくるとステップを刻んでいく。
それを楽しげにライナーは見ていた。
と、突然、ふぉるての足が止まった。
いや、止まったのではない。
「あっ!!」
はしゃぎすぎてしまったのだろう。
不意に足を取られ、転びそうになる。
「危ないっ!!」
とっさに抱きとめるライナー。
「大丈夫じゃったか?」
ライナーの言葉にそっと頷くふぉるて。
「怪我は……しておらぬようじゃの」
ふぉるての乱れた服を直しながら、ライナーは安心したように微笑む。
「ありがとう、ございます………」
照れたように微笑みながら、ふぉるては続ける。
「今年も、貴方に夢を見て頂けて、本当に良かった……」
「わしの方こそ、ありがとうじゃよ」
二人は見つめ合い、そして………。
「あ、ごめんなさい……もう、こんな時間……」
夢の時間が終わりを告げる。
「もう?」
名残惜しそうにライナーがふぉるてを呼び止めた。
「また、会えるかのう?」
ライナーの言葉に、ふぉるては迷った。
「貴方が……夢を見るのであれば………」
その言葉にライナーは満面の笑みを浮かべた。
ほんの僅かな時間。
わしは素敵な夢を見た。
その日の為に新しい服を用意して。
その日の為に髪も整えた。
まるで、天使といるような夢のような時間。
また見れるようにと、また夢で逢えるようにと、願いをかけて………。
遠くで誰かのくしゃみが聞こえた。
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イラスト: 山岡鰆