木の下で

●プレゼントを交換しましょ♪

「よし、これでばっちりっ!」
 ヒリュウは、うんと頷いて、目の前に奉納されたお菓子を眺める。
 ここは女神ランララの木。
 早めに来たヒリュウは先に奉納分を納めていた。
「そうすれば、一緒にいられる時間も増えるよね」
 ちょっと頬を染めて、嬉しそうに呟く。
「ザイン、まだかな?」
 ヒリュウは楽しそうに相手の事を待っていたのであった。

「うっわーーー。早く行くつもりが遅れちゃったよーーー」
 軽いフットワークで駆けていくのは、ザイン。
 夜遅くに出来た手作りのプレゼント。
 それを早く見せてあげたいと思ったのだが……少々寝坊してしまった。
「ヒリュウ、怒っているかな?」
 心配そうに丘の方を見ながら、そう呟くザイン。
「とにかく、早くたどり着かないと!」
 ザインは次々と道を阻むランララの試練を、ノリと勢いでクリアしていくのであった。

 そして、ザインはたどり着いた。
「おっそーーいっ!!」
 案の定、待たされたヒリュウはご機嫌斜めだ。
「ごめんごめん、ちょっと遅くなっちゃって」
「かなり待ったんだからね」
「本当にごめん」
 さっそく二人は、女神ランララの木の下でプレゼント交換を始めた。
「そうだ、オレもお菓子作ってきたんだ、クッキーだよ!」
 ザインは自分のプレゼントをヒリュウに渡す。
「……………………」
 紫色に染まった、何か。
 湯気が立ち込めている。
 いや、湯気だけではない。
 あり得ない刺激臭まであった。
「さ、どうぞ」
「う、うん………」
 くんくん。
「うっ……」
 その臭いだけで勘弁してもらいたい気持ちになった。
(「これを食べろと?」)
 はっきり言って食べるのは難しい。
「じゃ、じゃあまずは、一つだけ、ね?」
 そう言って、ヒリュウは勇気を振り絞って、そのクッキーを食べた。
「うっ!!」
 ヒリュウはこれが失礼な行為だということは承知していた。
 が、こればっかりは、我慢できない。
 ヒリュウは近くにあった草むらに入り、不味いクッキーを吐き出したのだ。
「ご、ごめん………」
「いや、いいよ。気にしないで」
 そう言いながら、ザインは今度は自分でそのクッキーを食べてみた。
「うっ……………………不味ぅ〜」
 ザインも涙が出そうになるくらい、それは強烈に不味いものであった。
「ザイン、これ、人には出さない方がいいと思うよ」
「うん、そのようだね……」
 そのヒリュウの言葉に、ザインは素直に認めたのであった。

「じゃあ次はボクの番ね」
 そう言って取り出したのは、ヒリュウの手作りチョコであった。
 形がちょっと歪だが、臭いはザインのものと違い、きちんと美味しそうなチョコレートの甘い香りがしていた。
「ちょっと形が悪いけど、美味しいはずだよ」
「どれどれ?」
 ザインがぱくんと食べてみる。
「美味しい……」
「でしょ?」
 ザインの言葉にヒリュウは得意げに笑った。

 二人はヒリュウの作ったチョコレートを楽しみながら、幸せな時間を過ごした。
 凄まじいクッキーに出会うというハプニングに見舞われたが、そんなことはどうでもいい。
 問題は、二人がどれだけ幸せな時間を楽しめたか、である。
 幸せな時間。
 二人にとって、この日の出来事は幸せで楽しい時間として、思い出に残ったことだろう。


イラスト: 聖マサル