夢のような現

●甘いいたずら

 どきどきどきどき。
 どきどきどきどきどきどきどきどき………。

 その日。オウリはかなり緊張していた。
 初めて着る服。
 好きな相手であるハンゾーとのデート。
 もう、心臓が飛び出してしまいそうな勢いであった。
 今は夜。
 空には美しい月が辺りを照らしている。
 そして、二人はさえずりの泉に到着した。

「オウリ殿、小腹は空かぬか?」
「は、はいっ。あ、いえ、そのっ」
 突然、ハンゾーに声をかけられ、オウリは半ばパニックを起こしかけていた。
(「ああ、こういうときって、何て言えばいいんです!?」)
「では、ここで休憩するとしよう」
 どうやらハンゾーは、オウリがお腹が空いたと判断したようだ。
 程よい場所を見つけ、ハンゾーはオウリと一緒に草原に座った。
「芋ようかんを持ってきたのだが、一緒に食べぬか?」
 そう言って、ハンゾーは懐から芋ようかんを取り出した。
 きちんと切り分けるためのナイフも用意して。
「あ、そ、それなら私も……と、トリュフを持ってきたんですっ」
 オウリも慌てて、自分の持ってきた三色団子風トリュフを取り出した。
 二人の前には美味しそうなようかんとトリュフが置かれている。
「では、いただこう」
「はい。い、いただきますっ」
 二人はぺこりと頭を下げてから、互いに相手の作ったお菓子を手にして、一口食べた。
「ほう、これは美味い」
「美味しいです……」
 二人の顔に笑みが浮かぶ。
 と、そのとき。ハンゾーはじっとオウリを見つめて。
「あ、あの? ど、どうかしました?」
 そのまま、ハンゾーの右手はオウリの頬に。
「わわっ!?」
(「こここ、これはもももももしかして………っ!!」)
 ひょい。
「菓子の欠片がついておったでござるよ」
 どうやらハンゾーはオウリの頬についたお菓子を取っただけであった。
(「な、なんだ……」)
 変な期待をしてしまったオウリは、ちょっぴりがっかり……するはずだった。
 ぱっくん。
「!!!!!!」
 見てしまった。オウリは見てしまった。
 オウリの頬にあった菓子。
 ハンゾーが右手で取った菓子は、そのままハンゾーの口の中へ。
「ははは、ハンゾーさん、そのあの、あ、ありがとう、ございますっ」
 もう、心臓は止まらない。止められない。
「ん? オウリ、殿?」
 どうやら、ハンゾーも事の重大さを理解したようだ。
 二人は互いに照れていた。
 顔は真っ赤である。
「そ、その……お、美味しいでござるな」
「は、はい……と、とっても……」
 ちょっぴり嬉しいハプニング。
 けれど、二人にとっては、ちょっぴり心臓に悪いハプニングになったようだ。


イラスト: 青柳アキラ