『俺と一緒にこの試練を乗り越…』『…真剣勝負じゃ…?』

●真剣勝負をしましょう?

 そのとき、緊張が走った。
 おかしい。
 明らかにおかしい。
 確か、ランララ聖花祭とは、ラブラブカップルがお菓子を持って、デートに行くお祭りだったはず。
 だが、目の前の女性を見よ。
 なぜ、鎌を持っている?
 真剣な……というか、明らかに相手を倒す事を前提にした、強い視線。
 ランララ聖花祭の試練を用意していた者の顔色が、さっと青くなった。
「とりあえず……覚悟……」

 イズリクスィウは、ご機嫌でずんずんとランララ聖花祭の試練を乗り越えていた。
 なんとなく、勢いで来てしまったが、まあいい。
 そう思って、次の試練に向かうときであった。
「あ、あれ?」
 見覚えのある後姿。
「も、もしかして、フロス?」
 間違いない、あの後姿はフロスだ。
 だが………。
「っていうか、いらんだろ、鎌っ!!」
 思わず突っ込みを入れるイズリクスィウ。
「あれ? イズリさん?」
「お、おまえなぁ〜〜」
 フロスに狙われた者を助けるために、イズリクスィウは、フロスをずるずると木陰へと引きずっていったのであった。

「アレ?……らんららって……真剣勝負じゃ……無かったんですか?」
「違う違う! ランララっていうのは、こう、好き同士のカップルが告白したり、デートしたりする祭りのことなんだ。だから、真剣勝負ってわけじゃない」
 イズリクスィウは、そうフロスに説明してやる。
「違うんですか………紛らわしいことです」
「紛らわしくないっ!! と、とにかくそういうことだ。今日は楽しく、真剣勝負と鎌なしで楽しんで来いよ」
「イズリさんは?」
「俺は頂上に用があってな。そう、可愛いお………」
「お、なんです?」
 そういうフロスの瞳が妙に迫力あるのは気のせいだろうか?
「あ、いや、可愛いお菓子でも貰えたらいいなーなんて思ってただけだから」
 その言葉に、フロスはさらに混乱していく。
「お菓子? 真剣勝負に必要なんですか?」
「い、いい加減に真剣勝負から、離れろ!」
 こうして、何とか、フロスに説明することができたイズリクスィウ。
 イズリクスィウは、フロスを置いて、ずんずんと頂上を目指すのであった。

「えっと、その………」
 目の前の女性は非常に困っていた。
「大丈夫。ちょっと一緒に女神ランララの木まで、遊びにいくだけだから………」
 そう言いながら、ナンパしているのは、イズリクスィウ。
 と、女性がイズリクスィウの後ろをしきりに気にしていた。
「どうかした?」
 振り向くと。
「……覚悟……」
 鎌を持ったフロスの姿が。
「うわ、こ、これは違うんだって。ちょっとした出来心ってやつでっ!!」
 こうして二人のおにごっこが始まった。
 しかもフロスの好きな真剣勝負での。

 夕暮れ。
 空は茜色に染まっている。
 イズリクスィウは心地よい疲れを体に残しながら、ゆっくりと丘を降りていった。
 その背には疲れて眠っているフロスの姿も。
「ま、楽しかったからいいか」
 背中のフロスに気づかれないように、イズリクスィウは小さな声で、そう呟いた。

 こうして、二人のちょっと奇妙なランララ聖花祭が終わったのである。


イラスト: 浅葱しおん