幸せな時間

●夕陽の下で囁いて

 黄金色に染まる丘の上。
 二人は草原に座り、ゆっくりと時が過ぎるのを眺めていた。
「こんなお祭りに参加するのは、初めてです……」
 エルはシェードの膝に寄り添いながら、囁くように嬉しそうに呟いた。
 シェードはエルの頭を優しく撫でながら、エルを見つめる。
「そうなんですか。じゃあ、ちょっと緊張したんじゃないですか?」
 そんなシェードの言葉にエルは、苦笑する。
「ちょっとは、ですけど。でも、それよりも………」
 祭りに参加する事が、楽しみで楽しみで仕方なかった。
 しかも、大切な人と一緒に過ごせる、素敵なお祭り。
 緊張よりも祭りの期待感で胸がいっぱいだった。
「それよりも?」
 不思議そうにエルの顔を覗き込むシェード。
「幸せです」
 今が、幸せだからこそ、祭りを楽しく過ごせたのだと思う。
 エルはそう笑顔で答えた。
「私もです」
 二人は微笑みあい、ふと、目に入った空を見た。
「綺麗だ………ね」
 シェードの言葉に、エルはそっと頷いた。
「夕焼けもだけど……エルさんも」
 突然の告白。
「え?」
 突然の口付け。
 それは淡く甘いキス。
 夕陽の所為か、エルの頬が紅く照らされていた。
「この生が続く限り……一緒にこの空の下で生きていけたら」
 瞳を細めるシェードにエルは、同意するかのようにそっと寄り添う。
「とっても……素敵ですね」

 陽はゆっくりと落ちていく。
 ゆっくりとゆっくりと。
 二人の幸せなときはこうして穏やかに、そして優しく過ぎていったのであった。


イラスト: 浅葱しおん