― Pyroxene flower ―

●朝露の花に添えて

 朝日が見える頃、2人は朝露の花園で待ち合わせをしていた。
「いったい、エリィはどれくらい待たせるつもりなんだ?」
 一足先に目的地にたどり着いたシーヴァスは、時間になっても現れないエレハイムの事を待っていた。
 実際には、シーヴァスが早く着きすぎたというのもある。
「……本当にここでよかったんだよな?」
 きょろきょろと辺りを見渡す。
 だが、エレハイムの姿は、まだない。
「ま、まさか、道の途中で事故にあったんじゃない、よな?」
 様々な不安が、シーヴァスの頭の中を駆け巡る。
 ただ、この場にいないだけという、些細な不安。
 遅れているだけだと、心で言い聞かせながらも、シーヴァスはエレハイムを辛抱強く待っていた。

「こういうのも、たまには良いのかもしれないわね」
 エレハイムはシーヴァスを探しながら、花園を歩いていた。
 いろいろな無茶をするシーヴァス。
 けれど、最後には必ず、エレハイムの所へ戻ってきてくれた。
 シーヴァスの気持ちは、正直、エレハイムもよくわからない部分が多い。
 けれど。
「ちょっとくらい、心配……してくれるかしら?」
 小さな不安。
「それよりも、早く見つけないと」
 エレハイムは、ふとよぎった不安を追いやるように、花園の中を駆け出した。

 そして、数分後。

「なかなか見つからないんですもの、探したのよ?」
 エレハイムは弾んだ息を整えながら、微笑む。
「あのな、エリィ。俺だって……」
 何かを言いかけるシーヴァスの口をエレハイムが止めた。
「瞳を閉じて……」
「瞳?」
「いいから、早く」
 素直にシーヴァスは瞳を閉じた。
 こつんと何かが、頭にぶつかる。
「これで『おあいこ』、よね?」
 そう言ってエレハイムが渡したもの。
 朝露を浴びた小さな花が添えられた、チョコレートの箱だった。
「そう言われると、辛いな……」
 シーヴァスはそれを受け取り、苦笑を浮かべた。
 今まで無茶をしてきたシーヴァス。その度にエレハイムに心配かけさせていたのかもしれない。
 そう。今日の待ち合わせのように、大切な人を思いながら、不安になりながら、待っているのと同じように。
 だからこそ、今日は。
「ありがとう、エリィ」
 シーヴァスの心からの感謝を込めた優しい微笑が、エレハイムに向けられる。
「いいえ、どういたしまして」
 2人っきりで幸せな思い出を作ろう。
 ほのかに甘く、2人の距離が短い場所で。


イラスト: 風音昴