●満月の誓い

 波の音が聞こえる。
 辺りは闇が支配する夜。
 篝火と、空に浮かぶ満月。
 そして、夜空を彩る様々な星々。
 そこに二人はいた。

 ここは、船の上。
 マウサツから、また新たな土地へと向かう船に、二人は乗っていた。
『楓華の風カザクラ』。
 それが、二人の所属する部隊の名であった。
「こんなに遠くまで来てしまいましたね」
 夜空に浮かぶ月を見上げながら、アオイは呟いた。
「そうですね。ここまで来ても、分かった事も分からなかった事も山積みです」
 そういって苦笑するシトリーク。
 それにアオイも微笑した。
「やるべき事は沢山ありますけど……これからもよろしくお願い致しますね」
 そう言ってアオイはシトリークを見つめた。
 シトリークはそっと、アオイの髪の一房をすくいとり。
 くちづけ。
「あ……」
 そして、満足げに瞳を細めるシトリーク。
「さらに踏み入った未知の土地……たとえこの先何があろうとも……貴女と共にあることだけが私の望み……聖花の女神ではなく、私だけの女神に誓いましょう」
 私だけの女神。
 それはアオイの事を指す。
 思いがけない返事に、アオイは喜びを隠し切れない。
 いや、隠す必要もない。
「シトリークさん……」
 他人には見せない、笑み。
 思わずシトリークは、目を見張った。

 特別な日になった満月の夜。
 二人は長い間、暗い海を眺めていた。
 まるでそこに、希望という名の大陸が見えているかのように……。


イラスト: 有水翠