表の顔と、裏の顔。

●幸せな私? 幸せなあなた?

 ある者は、その日の日記にこう記している。
 今日という幸せに満ちた日は、他にはない!
 ああ、女神ランララよ、今日という記念すべき祭りを作ってくれてありがとうっ!!

 どう考えても、わからない。
 どうして、私はお菓子を作ったのだ?
 どうして、私は、この花園に来てしまったのだ?
 どうして、私は、この祭りに参加しているのだ?
 わからない。
 どうして、こんな事をしているのか。
 そして、どうして、こんなにも苦労しながら、このお菓子を相手に渡そうとしているのかが。
 アーネストは、自分の行動に困惑していた。
 だが、1つだけ言える事がある。

 目の前の男の事は、嫌いじゃないという事が。


「ありがとうございます、アーネストさん」
 いつもの落ち着いた口調、いつもの笑顔。
 コーツェルはいつもと変わらぬ素振りで、アーネストのプレゼントを受け取っていた。
「よ、喜んでくれたのなら、それでいい……」
 一方、アーネストは慣れない笑顔の為か、顔が微妙に引きつっている……ような気がする。
「ああ、プレゼントを受け取ったからには……ご一緒にお茶でもいかがですか?」
「はえ?」
 コーツェルの突然の提案。思わずアーネストは変な声をあげてしまった。
「い、いや、その、私は用事も終わった事だし、このまま帰るつもりだ」
 慌てながら、アーネストはそのまま帰ろうとする。
「いいえ、それでは、私の気がおさまりません。プレゼントを貰ったからには、それ相応のお返しをしなければ」
 そうでしょう? と、コーツェルはいつもの笑みで訊ねた。
「それは一理あるな……」
 言われて呟くアーネスト。
「では、さっそく……」
「だ、だからといって、今日行く事もないだろうっ!?」
 いつの間にやらコーツェルの手は、アーネストの手を引き、何処かへと導く。
「その日の事は、その日のうちにといわれませんでしたか?」
「そんなこと、聞いていないっ」
「では、覚えて置いてくださいね」
「そうじゃないだろう? そ、それに、何処に行くつもりなんだ!」
 くるりと振り返り、コーツェルはまた笑みを浮かべた。
「お茶しに行くんですよ」
 どうしても、譲れないようだ。
 アーネストは観念したように、深いため息をついた。
「……わかった。その、少しだけ、だぞ」
「ええ、それだけで充分です」
 微笑み。
「え?」
 それは、一瞬のこと。
「何か?」
「いや、その……な、なんでもないっ」
 ほんの少し見えたのかもしれない。
 コーツェルが喜ぶ心を。
 そして、それを見て、更に焦る自分の心も。
 アーネストはこうして、コーツェルのエスコートで、評判の店へと向かうのであった。


イラスト:羽月ことり