ランララ聖花祭 朝露の花園にて
●小さな勇気と共に
ファオは、ゆっくりと朝露の花園を歩いていた。
色とりどりの花が、ファオを歓迎しているかのように。
「アズヴァルさんはまだ、来ていないみたいですね……」
もう一度、ファオは辺りを見渡すが……まだいないようだ。
ファオは、アズヴァルが来るまで、しばらくこの花園を楽しむことにした。
「わあ、綺麗………」
立ち止まり、ファオは花を見る。
朝露を浴びた綺麗な花。
「こんなにゆっくり花を見たのは、久しぶりかもしれませんね」
こんなに綺麗だったとは、気づかなかった。
今までいろいろな事があり、こうしてゆっくりと花園を回ることもなくなっていた。
「早く、アズヴァルさんに教えてあげたいです……」
失いかけていた想いが、時間をかけて戻ってくるような気がした。
幼い頃、別の花園で遊んでいた記憶。
花冠や、花のネックレス、腕輪を作って遊んでいた事が思い出された。
時には、幸せを呼ぶと呼ばれるクローバーを探しに出かけたときもあった。
「なんだか、懐かしいですね」
ファオはそっと瞳を細める。
と、今度は鳥のさえずりが聞こえ始めた。
「鳥も来ているんですか」
花園の側にある木々を仰ぎ見る。
そこには小さな小鳥達が、空の散歩を楽しんでいた。
心地よいさえずりを響かせながら………。
ふと、ファオは手に持っていた箱に視線を移した。
アズヴァルに渡そうと思っていたプレゼント。
綺麗にラッピングした箱の中には、ファオの想いが込められた、大切なプレゼントが入っている。
それだけではない。
内気で人見知りするファオが気持ちを伝えるためにと用意した、手紙も添えてある。
「もらってくれるといいのですが……」
不安そうに、けれど嬉しそうに微笑むファオ。
「ううん、嫌なことは考えてはいけませんよね」
また、小鳥のさえずりが聞こえた。
それはまるでファオを、勇気付けるように。
「そうですね、私も頑張らないと」
と、そのとき。
遠くからファオを呼ぶ声がした。
「え?」
振り向くと遠くから手を振っているアズヴァルの姿が見える。
ファオは嬉しそうに微笑んだ。
「アズヴァルさん、私はここですっ!」
小さな思い出を胸に、ファオはアズヴァルに想いを伝えるためにプレゼントを渡す。
これから始まる素敵な時間が得られるように。
そう、願いながら………。
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温・ファオ
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白銀の霊査士・アズヴァル
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イラスト: synn