ランララ聖花祭/そして今日も猫と一緒

● そして今日も猫と一緒

 朝露の花園にて、一組のカップルが猫の世話をしていた。
「猫の散歩がてら、女神の木を見に行きましょう」
 そんなエリスの誘いで二人はデートに出発したのだ。
 エリスが照れ屋なこともあり、ヨナタンが遠慮していることもあり、なかなかいちゃいちゃ出来ない二人だが、今日はランララ聖花祭。少しくらいはロマンチックな雰囲気になるはずだった。
 だったと言うのに、ランララ聖花祭の会場でありながら、二人はいつもと何ら変わらない。
 ようやく周囲も公認する恋人同士という関係になったというのに、青い瞳の猫の世話に手を焼いていた。
 グレイの長毛を丁寧にブラッシングしてやる。
 日頃の手入れが行き届いていなかったのか、かなり毛が絡まっていた。
 デートの日にはいつも猫を誰か彼か――二人は自他共に認めるかなりの猫好きなので――を連れて来てしまうため、なかなか二人きりになれないのが二人の日常だった。改めて二人きりになると余計に照れてしまうのだろうと思いながら、ヨナタンはエリスの赤い髪を見つめる。
 彼女は猫の毛と格闘しながらも、結構、今の状況を楽しんでいるようだ。
 良かった、と笑みを浮かべるヨナタンに気付いて彼女はブラッシングの手を休める。
「…………」
 不意に見詰め合う二人。
 数秒、甘いわけでも無い穏やかな沈黙が流れる。
 エリスはにっこりと彼に微笑み掛けて、さらさらになった猫の背を撫でた。
 ヨナタンは今がチャンスとばかりに口を開く。
「僕はエリスさんが大好きです」

 突然のヨナタンの言葉に、きょとんとしてもう一度彼を見つめ直すエリス。

「尊敬してますし、感謝してますし」
 続く言葉に、エリスの顔が見る見るうちに赤くなる。
「すごく可愛いと思ってますし」
 ヨナタンは愛しい人を見詰めながら、はっきりと告げた。
「公明正大、愛しています」
 エリスは耳まで赤くなった。
 視線を逸らしてもごもごと口篭る年上の恋人を前に、ヨナタンは自嘲するように苦笑する。いつも微笑んでいて、とてもしっかりしていて大好きななのですと告げながらも、彼は自分に自信が無かった。「……頼りない男だと思ってますよね」
 思わずぽつりと漏らした呟きに、エリスは大きく目を見開いた。
「そ、そんなことっ」
 思わず口走ってから、エリスはますます赤くなった。
 これ以上赤くなると熱暴走で危険かもしれない。
「エリスさんに見合う男になりたいです。貴女を支えて歩いて行ける器量の冒険者になります」
 彼は灰色の猫を撫でながら、優しく微笑んで彼女に誓った。



イラスト: 黄桜伽奈子