0083 星屑の記憶

● 星屑の記憶

 たとえ、おまえが忘れようとも、俺はあの日の事を思い出す。
 あの夜の星の瞬きと共に………。

 その日、オメガは随分前から準備をしていた。
 彼女との待ち合わせを何処にするのか。
 彼女へのプレゼントは何にするのか。
「待ち合わせは、やはり、丘だよな……」
 うんうんと頷きながら決めていくオメガ。
「そして……プレゼントは……」
 様々な候補があった。オーソドックスにお菓子とも考えたが、やはりここは……。
 こうして、準備の整ったオメガは、無事、リョウコを星屑の丘に誘う事に成功したのである。
 ……どうやって誘ったかは、企業秘密らしいが。

 そして、当日を迎える。
「こんばんは、オメガさん。誘ってくれてありがとう」
 リョウコは、時間通りにやってきた。
 空には降るような星が瞬いている。
「わざわざ来てくれてサンキューな! 実はリョウコに渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの?」
 きょとんと首を傾げるリョウコに、オメガはきゅぴーんとその瞳を怪しげに光らせた。
「いやなに大した事無いんだ。ちょっと町でリョウコに似合う服を見つけてな」
「あたしに似合う服?」
 嬉しそうに笑みを浮かべるリョウコに、ずばーんとオメガは、自分の選んだプレゼントを差し出した。
「………………え?」
「一部で人気な体操着だっ! しかもリョウコの名前付きっ! 気に入ったのなら、すぐさまこの場でお着替えを……」
「そ、そんなのできるかーーーーーっ!」
 リョウコの華麗なキックがオメガに命中!
「くう、効くぅ〜〜」
 ゆっくり背中から倒れていくオメガ。
 その目の前には、チカチカと星が瞬き。
 その手には、着る者がいなくなった体操着だけが残されたのである。

 気が付けば、もうリョウコはいない。
 何処へ行ったのかもわからない。
 ただ、分かる事は。
 この体操着を受け取ってもらえなかった事。
 オメガは落ちている体操着を持って、ゆっくりと帰っていく。
 その背中は何かをやり遂げたという誇らしげなもの。
 いや、それは哀愁だろうか?
 オメガはこうして、星屑の丘を後にしたのであった。

 俺はまた、あの日の事を思い出す。
 でも、できれば……リョウコには、アレを着て欲しかったなぁ〜。


イラスト:秋月えいる