遅刻した貴方を待ちつつ

● 遅刻した貴方を待ちつつ

 待ちに待ったランララ聖花祭。
 イツキは楽しげに服を選んでいた。
 この日の為に朝早く起きて。
 この日の為に素敵なお菓子を用意した。
「でも……大丈夫かしら?」
 ちょっぴり心配。今回もまた、とんでもない試練があるのだから。
「きっと……来てくれるわ」
 イツキは選んだフリルドレスに身を包むと、お菓子を手に家を飛び出した。

 案の定。
 彼はまだ来ていない。
 一人、また一人と幸せそうなカップルが女神の下で出会い、そして何処かへと出かけていく。
 不安。
 もしかしたら、来てくれないのだろうか……そんな不安で、胸が押しつぶされそうになる。
 それでも……ずっと待っていられたのは、希望という名の愛ゆえに。

 結局、彼……アルベルトが来たのは、夕暮れ時であった。
「すみません、その、遅れてしまって……」
「いいえ、あなたが来てくれただけで、充分」
 夕暮れの紅色に染まる空の所為か、イツキの頬が紅く見える。

 充分すぎる恋人。
 こんな長い時間待たせてしまったのに、そんな事を微塵も感じさせない。
 自分にはもったいない恋人。
 だけど……彼女がいるから、自分は……。

「どうぞ。あたしからのプレゼントよ」
 イツキは矢で射抜いた意匠のチョコレートを両手で差し出した。
「あ、ありがとうございます、イツキさん……」
 アルベルトは、渡されたチョコレートをしっかりと受け取った。
 それを見たイツキも、更に頬を紅く染めながら、嬉しそうに笑みを浮かべる。
 幸せなひと時。
「どういたしまして……受け取ってくれるだけで、嬉しい……」
 そして、イツキは、自分の額をアルベルトの額へと近づける。
 と、イツキが口を開く前に、アルベルトが語り出した。
「ずっと待たせっぱなしだったけど、一緒にいられるようにしたいね。都合で旅が多いけど、心は常に一緒に……。帰ってきたときには、羽根を休める港であって欲しい……我侭かな?」
 そう言って、アルベルトは笑みを浮かべる。
 その微笑みは、少し不安そうに。
 イツキはくすりと笑った。
 もう、答えは出ている。
「何時だって、あたしはここに居るわ。なので安心して遠出してらっしゃい♪ でも……何時かは共に歩みましょうね♪」
 それが、イツキの答え。
 二人の想い……長く離れ離れになる事が多いが、それはきっと、これから埋められるはずだ。
 近い未来、共に歩む為の大切な約束を交わしたのだから……。


イラスト: mr2